感じるままに、自分を解放できる。そんな環境が身近に。

突然ですが、自分の感じるままに遊べていますか?時には泥だらけになって、思いっきり遊ぶ。そんなことがなかなかできない社会になっています。それは大人だけではなく、子どもも然り。本来遊びの場である公園でもやってはいけないことが増え、事故が起きないように、他人に迷惑をかけないようにと過ごす毎日。時には大人も子どもも思いっきり、そして真剣に遊びたい、そんな場所を提供しているのが、逗子にある「原っぱ大学」です。

今回、その活動をお伺いしたのは、HARAPPA株式会社代表取締役 塚越 暁(つかこし あきら)さん。逗子の豊かな自然の中、どんな遊びもOKな「原っぱ大学」。ここは、子どもはもちろん、大人も思い切り遊べる場所。ここでの合言葉は「迷惑をかけ合おう」。少し気持ちが軽くなる、そんな遊び場を紹介します。

インタビューに応えるHARAPPA株式会社代表取締役 塚越 暁(つかこし あきら)さん 
インタビューに応えるHARAPPA株式会社代表取締役 塚越 暁(つかこし あきら)さん 

目次

発足のきっかけは、息詰まった自分自身の子育てから
コントロールできないからこそ面白い、自然のチカラ
「みうらの森林(もり)プロジェクト」に思うこと
三浦半島・横須賀の魅力は?

 

発足のきっかけは、息詰まった自分自身の子育てから

――「原っぱ大学」の取組み、活動内容についてお聞かせください

塚越さん:「原っぱ大学」では、大人と子どもが思いっきり遊ぶ、そういった場を作っています。今は、公園でも広場でも周りの人に迷惑をかけないようにとか、危ないからやっちゃダメといった考え方が多い。遊園地にしても、ここはこういう遊びをする場所ですと、決まった範囲の中で安全に遊ぶということが主流で、これは本来の遊びとは少し違うのではと。

――確かにそのような風潮がありますね

塚越さん:最近の風潮では、遊びを通して学ぶ、生きる力を身につけるために学ぶとか。でも遊びは本来そういうものではないんじゃないかと。大人にとっても子どもにとっても、自分が感じるままに、考えるままに過ごすということが遊びだと思うのですが、それが失われている。「原っぱ大学」はそうした本来の意味での遊びの場を作っていると考えています。そのため、いわゆる“大人が決めたルール”は設けていません。自他の安全に関わることをのぞいて、やっちゃダメということも決めていないんです。

「原っぱ大学」の様子
「原っぱ大学」の様子

――「原っぱ大学」を発足させた、きっかけは何だったのですか

塚越さん:以前は東京で会社員をしていましたが、東北の震災をきっかけに会社員であることが嫌になってしまって。何かを始めようと思い、いろいろと模索していました。

――以前は東京で暮らしていたんですね

塚越さん:東京での子育ては、苦しくて仕方なかったんです。週末、子どもと近くの公園に出かけても、子どもは同じことを永遠に繰り返すんですよね、例えば滑り台を何度も何度も繰り返す。それを見ているのがしんどくて、子どもとの時間が苦痛に感じてしまうことがありました。そして趣味のサーフィンも東京ではもちろんできない。そうした日々を過ごしている時、ふと地元逗子でマンションの販売を知り、「子育てには海と山がある場所がいいよね」と、奥さんを説得して移住しました。

逗子の秘密基地「村や」で焚き火をしながら話す塚越さん
逗子の秘密基地「村や」で焚き火をしながら話す塚越さん

――遊び場を提供している今からすると、それは意外ですね。移住してからはどうでしたか。

塚越さん:この街に住み始めると、自分の子育てが変わりました。引っ越してきた当初、海に行くと息子が「砂の感触が気持ち悪い」と言って、砂浜を裸足で歩くことを嫌がったことにショックを受けました。でも、自然の中で仲間たちと過ごしていくうちに、のびのび育ってくれて、それは本当によかったと思います。息子と一緒に海に入ったり、山を探検していたりすると、息子を通して自分が蘇ってくる感じというか、自分自身に立ち返っていくように感じられました。

子どもひとりひとりの「今やりたい」「今やりたくない」といった感情を大事にしたいと思っていて、それはわがままではなく、自分の声や感覚に対して素直であるという事だと思うんです。これは“小さな人”たちにとって、大きな宝になると思っています。そうした場所を、子どもたちに与えられたというのは、移住で得た大きなポイントかもしれません。

そして、子どものために何かやらなければいけないという、ある種義務感だったことが、子どもを通して自分も幸せな経験を得る。ちょっと成熟したというか、子どもを仲間として見るというか、そんな風に自分が変わっていきました。

――それは大きな変化ですね

塚越さん:そして改めて自分自身に何ができるのだろうと問い詰めて考えた時に、僕はこの街にバックグラウンドがあったから気楽に自然にアクセスできたけど、生粋の東京育ちの人や地方から出てきた東京暮らしの人は、自由に遊べる場所へアクセスする手段がないことに気がついたんです。自由に遊べる自然の場所を提供したら、みんなが喜んでくれるんじゃないかと。そうして2012(平成24)年に、今の前身の「子ども原っぱ大学」を立ち上げました。

 

コントロールできないからこそ面白い、自然のチカラ

――やはり海と山があるという、自然の場所がよかったのでしょうか

塚越さん:直接的に自然がよかったというのは少し違うのかもしれないですが、真剣に遊ぶということが僕を立ち返らせてくれた。真剣に遊ぶために、思い通りにならない自然を相手にすることは良いことだと思っています。自分の出来なさ加減も伝わってくるし、限界も知れますから。天気もそうですし、火をつけようと思ってもうまくつかなかったり。コントロールできないということは、いろいろな気づきをくれるんです。

 

自然と向き合える、逗子の秘密基地「村や」の様子
自然と向き合える、逗子の秘密基地「村や」の様子

――この遊びの場所の楽しみとは何でしょうか

塚越さん:何をやってもいいところです。ここでのルールは2つだけで、「自分が怪我をしないこと」、「他人にも怪我をさせないこと」。それ以外は何をやっても良いと伝えています。例えば穴を掘りたかったら掘ればいいし、焚き火をしたかったら焚き火をすればいい。木を切りたければ切る、ペンキを塗りたかったら塗る。最近はサッカーが流行っていて、でこぼこな山の中でサッカーをやっていたり。よく考えてみると、「何をやってもいい」ということが、実は本当に珍しいんじゃないかなと。

遊びながら、自由に作られたアスレチック
遊びながら、自由に作られたアスレチック

――何をやってもいいというのは、最初は戸惑いませんか

塚越さん:初めは「次何やるの?」とか、「どうしたらいいの?」と言う声もありますが、遊んでいるうちに徐々に聞こえなくなってくる。親御さんも「今日は焚き火を見たいから、この椅子でゆっくり一日過ごします。以上!」みたいな感じで自由に過ごす。大人と子どもに垣根はなくて、一人一人が好きに過ごす、そんな場所です。

ここは水道がなかったり、簡易トイレだったり、ガスもない、屋根もない。ないものだらけなんです。でも、ないものは作ればいいと考えて、それぞれが好きに過ごせる場所です。

――1日の過ごし方を教えてください

塚越さん:何をやってもいいと言いながらも、一つの形はありまして、通常のコースでいくと10時に来ていただいて、グループごとに焚き火に火をつけます。滑り台を作るとか、ツリーハウスを作るとか、プログラムは用意しています。でも僕らが大事にしているのは、それに縛られ過ぎないこと。「みなさん、これからこれを作りますよー。注目!!」と言う風にはしない。プログラムは遊びのきっかけとして用意したもので、好きなことをして遊んでもらっても全然かまいません。

天然のフィールドで、どろんこになりながら遊ぶことも
天然のフィールドで、どろんこになりながら遊ぶことも

 

「みうらの森林(もり)プロジェクト」に思うこと

――京浜急行電鉄株式会社の「みうらの森林(もり)プロジェクト」。伐採木材を再生可能資源として活用する取り組みの中で、「原っぱ大学」はこのプロジェクトに参加されていますね。

塚越さん:最初にお話しをいただいた時に、うわ凄い!と思ったんです。自然の木が50年以上もそのままになっている。そんな場所を目の当たりにして、これは宝物だと。話を進めていくうちに、プロジェクトに携わる皆さんの覚悟とか、ただバイオマス発電をするだけじゃなくて、地域の子どもたちと一緒に森林に入って切り開いていくという話を聞いた時に、日本国内でも類をみない、凄いプロジェクトになっていくというイメージが浮かびました。

森林に入っていく、「みうらの森林(もり)プロジェクト」での様子
森林に入っていく、「みうらの森林(もり)プロジェクト」での様子

――都市近郊社有林を自然のフィールドとして、親子で遊べるコンテンツの開発を行っていますね

塚越さん:三浦半島の大きなインフラを担っている鉄道会社が、誰も意識してなかった山に目を向けて、地域の人たちと一緒に、その山を未来に受け継いでいくための活動を事業性を持たせてやっていこうと言う取り組みは、最先端だと思ったんです。実際リリースが出た時、周りの人たちからの反響がすごかったです。「原っぱ大学」の発した情報の中でも、近年ないくらいに共感が大きかったですね。

「みうらの森林(もり)プロジェクト」の話題は、周囲からの反響も大きかったという
「みうらの森林(もり)プロジェクト」の話題は、周囲からの反響も大きかったという

――具体的には、どのようなところに共感されましたか

塚越さん:グランピング施設をつくるというような消費的な話ではないところが、すごく現代っぽくて面白いと思いました。近隣の方々にもオープンにして巻き込んでいく。これって凄いことじゃないですか。これまでは山は危ないから入るな、誰の山かわからないところに勝手に入るなだったのが、地域の子どもたちにもオープンにしていくと。

これはすなわち、どれだけ三浦半島の子育てが豊かになるかということなんですよ。資本主義の論理からすれば、全部木を切って太陽光パネルにするとか、ゴルフ場を作るとか、もっと違うアプローチもあったはずなのに、それを選択しなかったというのは、希望だなと思います。

――今はそこで「親と子が遊べる場づくり」というコンテンツ開発をおこなっていると

塚越さん:まだ始まったばかりですが、まさに「親と子が遊べる場づくり」を担当しています。まだ実証実験ベースで、これまで2回原っぱ大学の会員さんたちと遊ぶということをやってきたのですが、みんな大喜びですよ。今のフェーズは開拓なので、それはそれですごく面白いんです。

 

三浦半島・横須賀の魅力は?

――三浦半島・横須賀の魅力はどういったところでしょうか。

塚越さん:まず三浦半島全体の魅力でいうと、やっぱり海と山は間違いないですね。半島の素晴らしさとも言えると思います。海に潜ることもあるのですが、とても豊かな岩場があって、さまざまな魚がすぐ近くにいることも実感できます。まさに宝そのものですね。ただ、三浦半島はそのスケールが大きすぎないことも魅力だと思っています。房総半島や紀伊半島などはスケールが大きく、それはそれで魅力ですが、東京から1時間弱の場所で、こんなにも自然にアクセスしやすい所は他にないと思っています。

コンパクトに海と山、街がギュッとあるので、駅から20分の場所でも、さまざまな表情をみせてくれます。徒歩で全て完結できるというのも大きな魅力だと思います。横須賀中央は都会なので、大きな商業施設もたくさんあります。東京湾側と相模湾側では、空気感も全然違ったりしますし、逗子や葉山や三浦、横須賀もそれぞれ違った魅力があります。

さまざまな空気感をみせる、横須賀の海
さまざまな空気感をみせる、横須賀の海

僕は地元根性が強く、自分のアイデンティティは逗子にあると思っていましたが、いろいろな人たちと触れ合う中で、三浦半島民だと思うようにもなりました。そしてなんて豊かな場所なんだろうと。棚田や花が咲く様子に、四季が身近に感じられる。コンパクトな中に全てが詰まっている、それは本当に魅力だなと思います。

 

 

HARAPPA株式会社

代表取締役 塚越 暁(つかこし あきら)さん
所在地:神奈川県逗子市新宿3-5-40
URL:https://harappa-daigaku.jp
※この情報は2023(令和5)年3月時点のものです。

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