「下作延小PRIDE」を合言葉に、地域に根差した学校運営に取り組む/川崎市立下作延小学校
1983(昭和58)年の創立より、来年度で記念すべき40周年を迎える「川崎市立下作延(しもさくのべ)小学校」。JR南武線「津田山」駅に隣接した地域の顔と呼ぶに相応しい同校では、「かがやき交流会」など地域とのつながりを感じられる教育活動が行われている。
今回は2017(平成29)年から3年間教頭として校務をとりまとめ、2020(令和2)年に校長として着任した棟居謙先生を訪ね、同校の教育活動や子どもたちの様子、津田山エリアの魅力についてお話を伺った。
1983(昭和58)年の創立より来年度で40周年を迎える地域の学校
――まず学校の概要についてご紹介ください。
棟居先生 「川崎市立下作延小学校(しもさくのべしょうがっこう)」は、1983(昭和58)年の創立より来年度で40周年を迎えます。児童数は2021(令和3)年5月1日現在457名で、各学年2〜3クラス編成で運営しています。ここ数年の推移を見てみると、児童数が少しずつ増えているような状況で、来年度の新一年生は100名を超える見込みです。
JR南武線「津田山」駅に隣接した場所に学校があり、学校周辺には新しくマンションや一軒家もずいぶんと増えまして、今後も移り住む人が増えていくと思われます。
「下作延小PRIDE」をスローガンに掲げて取り組む多彩な教育活動
――教育活動において大切にされていることは?
棟居先生:ひと言であらわすと「下作延小PRIDE(しもしょうプライド)」という言葉に尽きると思います。
前校長の矢野先生と一緒に学校づくりを進める中で使うようになった言葉ですが、地域への愛着や誇りを醸成する川崎市の「シビックプライド」をヒントに「下作延小PRIDE」という言葉が生まれました。
当時矢野先生が仰っていたのは、子どもたちが自分の学校を自慢できるような学校になったら良いですねと。そういう教育活動ができるように私たちも頑張りましょうと。その言葉がとても心に残っていて、私もその思いを大切にして取り組んでいきたいと思いました。
「下作延小PRIDE」というのは、「自分を大切に思い、他者を認め、学校・地域・川崎を大切に思う子の育成に向けた取り組み」のことを指しています。主体的・対話的で深い学びを促す授業を行うのもそうですが、地域の方との出会いやふれあいを通して地域を愛する気持ちや感謝の気持ちを育てることなど様々な取り組みを進めています。
――「下作延小PRIDE」の具体的な出来事やエピソードはございますか?
棟居先生:例えば、以前5年生が電車を使って校外学習に出かけた際、本当なら楽しくて電車の中でもおしゃべりしたいと思うのですが、周りにいる人たちのことを考えて静かに乗っていたら、そこにいた方から「どちらの学校ですか?」「しっかりしたお子さんたちですね」と褒められたことがあります。学校に帰って来てからすぐにその出来事を「学校だより」にも書きましたが、子どもたちには「これも『下作延小PRIDE』だよね」と伝えました。
他にも、本校の児童が地域の方の雪かきをお手伝いした話を「学校だより」で紹介しました。普段の教室での様子を見る限り、比較的おとなしい印象の子なんです。でも、もともと心優しい子だったんでしょうね。きっと実際の行動に移すには勇気がいったと思うんです。そんなことを考えていたら私もじんわりときっちゃって。
御礼の電話をいただいてすぐに教室に向かい、「(お手伝いした地域の方が)すごく喜んでいたよ!」って本人に伝えたんです。そうしたら、本人は照れちゃって。その話を周りで聞いていた他の子どもたちも驚いていましたね。「下作延小PRIDE」を感じて、とても嬉しい瞬間でした。
こうした子どもたちの行動が学校の外でも認められるようになると、「下作延小は良い学校なんだってね!」って地域の方からも褒められるようになって、他の学年にとってもそれが自信に繋がることがあるんです。
自分に自信が持てるようになると、きっと周りの友だちのことも認められるようになって、好循環が生まれる。そうした子どもたちが学校に増えてくれば、きっとその学校は楽しくて仕方が無いはずですよね。さらに自分の学校を自慢できるような子どもは、きっと地域のことも大切にできると思います。ひいては、川崎市に住んでいることがすごく誇りに思えるようになるんだと思います。
講師の数およそ50人。地域とのつながりを感じる「かがやき交流会」
――「下作延小PRIDE」を目指す子どもたちを育むための取り組みがあれば教えてください。
棟居先生:毎年11月に「かがやき交流会」というのがありまして、地域の方の得意分野や専門家として取り組まれていることを題材に学習する機会があります。
今はコロナ禍の影響もあって例年通りの活動は行えていないのですが、以前は講師の方が50人くらい来てくださって、染物やお茶、生け花、俳句など、それぞれの特技を生かした16項目もの多彩な講座を開いてくださいました。一人あたり2講座受けることができるのですが、子どもたちは学年に関係無く、興味のある講座に参加できるようになっています。これは本校自慢の行事ですね。
コロナが収束したらまた復活させたいと思っています。
学校・地域の安全のため、8町会から約80名もの有志で運営されている「避難所運営会議」
――他にも、地域とのつながりを感じられる取り組みがあれば教えてください。
棟居先生:以前から町会の方たちをはじめ地域の方が学校運営に積極的に関わってくださって、いろいろな場面で支えていただいています。ボランティアグループもたくさんありますし、例えば第一町会の「福寿会」の皆さんは、毎週金曜日になると通学路に立って登校時の見守りをしてくださいます。
また注目いただきたいのは「避難所運営会議」です。どの地域の学校でも行われているのですが、本校ではかなり古くから活動が行われ、人数も80名規模で運営されています。
自主防災組織の代表者として町会長さんだけが会議に参加しているという状況が多い中、本校では毎年避難所開設訓練が行われ、炊き出しやAEDの使い方を練習したり、避難所として開放する体育館の区割りや誘導等の練習も行われたりしています。
大きな地震や災害があった時は「避難所運営会議」のメンバーが避難所を立ち上げて、初期段階の運営を行うことになっているのですが、8町会それぞれから多くの方にご参加いただいているので学校としても安心ですし、すごく有り難いことだと思っています。
避難所開設訓練には4年生の保護者を中心に、全校に呼びかけて参加を促しています。我々職員もお休みの日ではありますが、学校に来て一緒に訓練しています。本校に入学したばかりで地域のこともよく分からないという方がいらっしゃれば、ぜひご参加いただければと思います。常日頃から自分のことは自分で守るという意識を持ちつつ、だれもが地域の一員としてかかわるといった取り組みを大切にできれば良いなと思っています。
「緑ヶ丘霊園」一帯の自然環境を生かした教育活動
――学校周辺の環境を生かして行われている取り組みがあれば教えてください。
棟居先生: 学校の西側にある「津田山霊園(緑ヶ丘霊園)」の中にちょっとした森がありまして、本校の教育活動に生かしています。
例えば、2年生は生き物探しをしながら自然について学んだり、5年生は環境教育の一環で森の再生や谷戸づくりを目指した取り組みを行いました。また、絶滅危惧種に指定されているお花の保全に取り組んでみようかといった話もあり、恵まれた環境だと思います。
また、本校から歩いて5分ほどの場所に「川崎市子ども夢パーク」という施設がありまして、3年生はこの「夢パーク」がどういった経緯でできたかについて学ぶ機会もあります。
「夢パーク」は「川崎市子どもの権利に関する条例」をもとにして2003(平成15)年7月に誕生した子どものための遊び場です。今年で20周年を迎えますが、特徴としては施設内のプレーパークには、いわゆるルールが無いんです。禁止事項はなく、何をして遊んでも良い。だけどそこは人権を大切にしているところなので、友だちの人権は守ろうねと。
泥あそびをしようが何かモノを作ろうが、火を焚いたって構わないんです。ただし、そこで起きたことはすべて自己責任なので、自分たちで考えて遊ぶことができます。こんな場所は他にはなかなか無いと思いますので、歩いて行ける距離にあるというのはすごく魅力だと私は思います。
今年度から1人1台の「GIGA端末」を導入
――GIGA端末の導入もスタートしたようですが、活用の実際や子どもたちの反応はいかがでしょうか?
棟居先生 文部科学省のGIGAスクール構想に基づいて、本校でも今年度から「GIGA端末(Chromebook)」が1人1台支給されています。教科では国語、算数、理科、社会の4教科をはじめ、生活や総合的な学習の時間、図工、音楽の授業でもすでに使われています。
例えば、音楽では専用ソフトで曲づくりをしたり、図工の作品を写真で撮って説明を加えたりというようなことも実施しています。また先日学習発表会がありましたが、4年生はスライドを作って個人で発表していました。
感染症の影響もあり、2022(令和4)年1月下旬からは金曜日に自宅へ持ち帰ってもらうことにしました。土日に何か連絡を受け、月曜日から学校がお休みになるといった場合でも、端末があれば連絡がとれますし、「Google Classroom」で課題のやりとりをしながら学びを継続することもできます。
今後、学校全体が休業になったときには、朝の会は「Google Meet」を使って、今日の課題はこうなっています、これは教科書の○ページを読んでから答えてください、やり方はこうですよ、といった説明をしておくだけでも課題がやりやすくなると思います。導入間もないのですが、子どもたちも使うたびにどんどんスキルが上達しているのを感じます。
川崎市内で活動するスポーツチームのロゴが並ぶ、唯一無二の横断幕を掲出
――創立40周年を迎えるにあたって、今後、新たに取り組みたいことなどはございますか?
棟居先生:先日ようやく実現したのですが、「津田山」駅側に設置した学校の新しいフェンスに大きな横断幕を掲げさせていただくことができました。「KAWASAKI PRIDE」という大きな文字を中心に、川崎市を拠点に活動するスポーツチームのロゴが並んでいます。
左から女子バスケットボールチームの「富士通レッドウェーブ」、アメリカンフットボールチームの「富士通フロンティアーズ」、J1の「川崎フロンターレ」のロゴもありますし、プロバスケットボールチームの「川崎ブレイブサンダース」、東芝の野球部「東芝ブレイブアレウス」、そして女子バレーボールチームの「NECレッドロケッツ」の計6チームに協力をいただき唯一無二の横断幕を作成させていただくことができました。
また、その下には「川崎フロンターレ」の後援会に作成いただいた横断幕も掲げさせていただき、子どもたちには「これも『下作延小PRIDE』だね」と話しています。
本校で横断幕を掲げさせていただくことになった経緯としては多くの出会いと関係各所のご支援、ご協力がありまして実現に至りました。ひとつは、中村憲剛選手の引退に際して子どもたちから何かできないかと教員に相談がありまして、サッカー教室などでお世話になっている「川崎フロンターレ」さんに子どもたちの想いを伝えたところ、共感してくださったのが始まりです。
ひとクラスずつ言葉を入れた手作りのシャーレ(優勝皿)を制作したのですが、その取り組みを「川崎フロンターレ」さんに取材してもらっただけでなく、中心になって企画していた4人の子どもたちが引退セレモニーに招待されて、直接ご本人に手渡すこともできました。すべての始まりは子どもたちの提案がきっかけとなり今回の取り組みにつながりました。
もうひとつ大きな出会いとしては、中村憲剛選手のユニフォーム型のビッグフラッグを制作した影山さんの存在です。「川崎フロンターレ」さんを通じて知り合ったのですが、本校の取り組みに「面白い」と共感してくださって横断幕を作成いただけることになりました。
影山さんとは「せっかくチャレンジするなら大きいことをやりましょう!」と川崎市内で活動するスポーツチームをみんな応援しようという話になり、関係各所と交渉を重ねて出来上がったのがこの横断幕なんです。
私は教員になってからずっと体育の研究をやっていまして、スポーツが大好きです。川崎市にはこんなにも素晴らしいスポーツチームがあって、夢に向かって活躍している人たちがいるということを、もっと子どもたちにも身近に感じてもらえたら良いなと。何かをきっかけにスポーツが好きになって、身体を動かすことが楽しいと感じたり、スポーツを通じていろんなことを楽しめる子どもたちが増えてくれると良いなと思っています。
もうひとつ、これはスポーツに限った話じゃないんですが、子どもたちがワクワクするようなこと、さらに言えば大人たちもワクワクするようなことをしたいと思っています。先生たちが毎日ワクワクしながら授業をしていたら、そんな学校面白いに決まっているでしょう。きっかけは何でも良いので、そういうワクワクすることにチャレンジできたらと常に考えています。
当時から変わらない綺麗な桜が咲き誇る魅力的な環境
――最後に、津田山エリアの魅力をお聞かせください。
棟居先生:私は小学校4年生まで隣にある上作延というところに住んでいまして、このあたりは地元で古くからよく知っているんです。
当時このあたりには「日本ヒューム(株)」という大きな管を作る工場がありまして、このあたりから「マックスバリュ 津田山店」のあたりまである大きな工場でした。今はびっくりするくらい多くの家が建っている住宅地ですけれど、当時は工場か畑か田んぼがあるだけといった場所でした。
上作延から畑の中の細い道をずっと歩いてくると学校の目の前の道にたどり着くのですが、道路の反対側には工場があって大きなクレーンが動いているのを見ながら駅に向かったのを覚えています。
当時からこのあたりは桜が綺麗で、春になると多くの人がお花見に訪れていました。駅から「緑ヶ丘霊園」へと向かう学校の横の道には、坂の上の方までひしめくように屋台が並んで、今でもその光景を覚えています。現在は、駅もすごく綺麗になって街の印象もだいぶ変わりましたが、本校の敷地にある桜は当時の面影をそのまま伝えてくれています。
川崎市立下作延小学校
校長 棟居 謙先生
所在地:川崎市高津区下作延5-19-1
電話番号:044-822-0723
URL:https://kawasaki-edu.jp/2/308simosakunobe/
※この情報は2022(令和4)年2月時点のものです。