漁業・農業体験プログラムを提供し、三浦半島の魅力を広める「株式会社シテコベ」

2023（令和5）年4月、「長井海の手公園 ソレイユの丘」に体験農園がオープンした。運営しているのは、漁業・農業体験をプロデュースしている「株式会社シテコベ」だ。横須賀市長井で生まれ育ち、昨年度まで横須賀市の市議会議員も務めていた代表取締役の嘉山淳平さんに、事業にかける想いや三浦海岸エリアの魅力について伺った。

楽しいだけじゃない、学びがある体験プログラムを提供

――まずは「株式会社シテコベ」の設立経緯とコンセプトについて教えてください。

嘉山さん　三浦半島は都心から近いにもかかわらず、風光明媚で自然豊かなエリア。でも「田舎だから何もない」と言われることも多く、悔しさがありました。昔から社会課題に対して「なんとかしなきゃ」という想いが人一倍強く、大学卒業後に求人業界の企業に勤めたのも「もっと働く場所を増やしていかなければ」と感じていたからですし、議員時代もさまざまな相談を市民から受け、解決するために働いていました。でも、議会で議論しても現場が動かなかったり、動いても遅かったり、予算がついても少額だったりして、常にもどかしさを感じていました。

そこで、小さくても現場で成功事例を作ることが大事だと考え、「株式会社シテコベ」を2018（平成30）年9月に設立しました。しばらく市議と兼業していましたが、本腰を入れてやろうと2023（令和5）年4月から事業に専念しています。ちなみに、社名は長井弁の「やってみよう（してこべぇ）」から付けました。

――「シテコベ サステナブルファーム」は、どのような場所なのでしょうか。

嘉山さん　三浦半島の豊かな地域資源を活かした体験農園です。土日祝日に実施していて、旬の野菜を数種類収穫し、お土産として持ち帰ることができます。

株式会社シテコベを立ち上げた当初は、生産者のみなさんと一緒にいろいろな場所で体験イベントを開いていたのですが、そのたびに場所を手配する必要があり、苦慮しておりました。今となっては弊社としても大きな拠点になりましたので、この「長井海の手公園 ソレイユの丘」という人気施設のテナントとして入れたのは、運が良かったと思います。

――「株式会社シテコベ」では、漁業体験や農業体験など食育に関わる多くのプログラムを開催されています。こだわりがあればお聞かせください。

嘉山さん　畑を案内して収穫して終わりではもったいないと思い、学びのある内容にしています。料理に規格外野菜や未利用魚を使ったり、地球温暖化の影響について話したり。この畑も「サステナブルファーム」という名前をつけて、循環型の畑であることにこだわっています。園内にいるカピバラや羊といった動物の糞を堆肥にして、畑に入れているんです。だから土が豊かになり、栄養豊富な野菜が育つんです。

また、できるだけ子どもが喜ぶ企画内容を心がけています。未来を担う子どもたちにこそ三浦半島の良さを知ってほしいのと、子どもに体験させたくて参加される方も多いので。結果として、子どもたちの笑顔や変化は僕らの大きなやりがいになっています。例えば、野菜嫌いの子がご両親に連れられて参加することがあります。トマトが苦手で食べられないという子でも、体験プログラムを通して食べた野菜は美味しくて、そこから食べられるようになったなんて聞くととても嬉しいですね。

魚をさばき、畑で採れたての味に感動！参加者の多くは都市在住者と移住者

――特に人気があるイベントについてお聞かせください。

嘉山さん　どれも人気ですが、トウモロコシと枝豆の収穫体験では、採れたての味に感動していただいています。野菜の中でもこの2つは特に採れたてがおいしいので、畑の横ですぐに湯がいて食べられるようにしているんです。漁業体験では、魚さばき体験、市場見学、漁船見学をセットにした定番のプランが人気です。最近は切り身で売られていることが多く、丸のままの魚をさばく機会が減っているからでしょう。魚をさばく体験は大人にも非常に喜ばれています。

――活動では農家や漁師の方々の協力が欠かせないと思いますが、地域とのつながりで大切にしていること、心がけていることがあればお聞かせください。

嘉山さん　これは起業した理由のひとつでもあるのですが、生産者の売り上げを高くしていきたいという声（課題）がありました。だから学びの要素を加えることで付加価値を高め、金額も少し高めに設定し、売り上げの大半を生産者にお渡しするようにしています。また、体験を機に生産者さんのファンになる方もいるので、体験者にはできるだけ生産者さんの情報を伝えるようにしています。

――参加される方は地元の方が多いのでしょうか。

嘉山さん　参加者の多くは横浜や東京にお住まいの方々で、子どもにそういう体験をさせてあげたいという親御さんが多いです。三浦半島にお住まいの方でも、都市部から移住してきた方が多くいらっしゃいます。僕は、そういう方だけでなく、地元の子どもたちにも体験させたいと思っています。農家さんの子は漁の経験はないでしょうし、漁師さんの子は畑仕事をしたことはないでしょう。地元の人にも、自分たちが住んでいる地域の素晴らしさをもっと知ってほしいと思います。

個人だけでなく団体も受け入れていて、小中学校からの依頼で体験授業を行うことも多いです。こちらも横浜、川崎、東京など都市部の小中学校からの依頼が多いです。

――今後、挑戦していきたい活動などあればお聞かせください。

嘉山さん　ひとつの体験だけでは三浦半島の魅力のごく一部しか伝えられないので、宿泊してもらうなど滞在時間を延ばして満足度を高めたいと考えています。三浦半島の中でどんどん点をつないで横展開を行い、この地域をもっとよく知ってもらえる、より魅力的に感じてもらえるコンテンツを提供していきたいです。また、シテコベなどの活動を通じて付加価値のあるコンテンツを提供すれば集客できるとわかったので、この知見や事業モデルを人口減少などで困っている他の地域にも伝えていければいいなと考えています。

大抵のものが駅前にそろい、魅力的な飲食店が多い三浦海岸エリア

――三浦海岸エリアは、三浦半島の中でどのような位置づけ、どんな印象でしょうか。

嘉山さん　便利な街という印象です。東京の人から見たら少ないかもしれませんが、スーパーマーケット、コンビニ、ファストフード、クリニックなど大抵のものが駅前にそろっていますから。それに他の地域では駅からどこかに移動するには車が必要ですが、ここは駅から徒歩7分の位置に海があったり住宅地も近いので、コンパクトな街の利便性は大きな魅力でしょう。

地元の食材を使ったおいしい飲食店がたくさんあるのも特徴です。その辺の飲み屋さんに入っても新鮮な三浦キャベツや三浦大根、魚などを使った料理が食べられます。チェーン店ではなく、地のものを使ったおいしい料理を出す個人店があるのがいいですね。僕も大学時代、東京で一人暮らしをしていたことがありますが、もう住めません（笑）。魚も野菜も「味がない」と感じてしまうんです。おいしいのに手頃な値段で食べられるのもいいですね。おすすめのお店は、「三浦海岸」駅の近くにある「さかな料理まつばら」というお店。マグロのしゃぶしゃぶとか、魚料理がすごくおいしいんですよ。

――三浦海岸エリアの魅力、子育てファミリーにおすすめのスポットなどを教えてください。

嘉山さん　三浦海岸には、毎年家族で初日の出を見に行きます。長井は三浦半島の西側に位置しているので、海から昇ってくるところは見えないんです。房総半島があるため厳密に言うと海からではないですが、とてもキレイです。また、以前居酒屋で飲んで帰るときに、店の人に「大根持ってきな」って、大きな三浦大根を2本持たされて帰ったことがあります。そういう人の温かさもこの辺りの大きな魅力だと思います。

――最後に、これから三浦海岸エリアにお住まいになられる方々へメッセージをお願いします。

嘉山さん　海も空も広く、子どもを育てるにも良いところです。砂浜では磯遊びや砂遊びができますし、釣りもできます。新鮮な魚を家で一緒にさばいてもいいし、毎朝海辺を散歩してもいいし、とにかく豊かな自然を子どもたちにどんどん体験させてあげてください。マグロ以外の魚もおいしいので、松輪サバや黄金アジなどもぜひ食べてみてください。豊かな自然と隣り合わせの環境ですから、それをめいっぱい楽しんでほしいです。