大島エリアで子育て支援の一体化を目指す、川崎市の新しい顔「川崎区保育・子育て総合支援センター」

川崎市営・臨港バス「大島5丁目」停留所から徒歩5分。「川崎区保育・子育て総合支援センター」には保育士、看護師、栄養士が常駐し、子育てに関する相談や援助、情報提供などを行っている。同施設の所長で保育士でもある瀧澤祐子さんと課長補佐の石倉江理さんに、取り組み内容や利用者の声、大島エリアの魅力について伺った。

所長の瀧澤祐子さん
所長の瀧澤祐子さん

地域の子育て力向上と活発な交流をめざして

——川崎市第1号となる保育・子育て総合支援センターと伺っています。センター開設の背景についてお聞かせください。

瀧澤所長:川崎市は、子育て世代の転入者や外国籍家庭が多く、核家族化が進み、子育てが孤立してしまう傾向がある中で、地域全体の子育て力を上げることや子育て中の家庭をつなぐ拠点としての役割強化が期待されています。

以前は公立保育園と地域子育て支援センター、そして関係機関と連携を図る区役所内の保育総合支援担当という部署が3か所に分かれて地域の子育て支援を担っていました。よりスピーディに、効果的に対応するために、その3つの機能を1か所にまとめ、保育と子育てを一体的に進める総合施設として、「川崎区保育・子育て総合支援センター」が誕生しました。川崎市内7区に順次整備する予定で、現在は中原区と宮前区にも開設されています。

「川崎区保育・子育て総合支援センター」正面玄関
「川崎区保育・子育て総合支援センター」正面玄関

——センターの概要や特長についてお聞かせください。

瀧澤所長:この施設は、2019(令和元)年9月に「川崎市立向小学校」の敷地内にオープンしました。1・2 階には大島5丁目にあった公立の「大島保育園・大島乳児保育園」が1つになり、現在は「大島保育園」として155名のお子さんを受け入れています。

大島4丁目にあった「地域子育て支援センターむかい」は名称を変え、新たにこの3 階に「地域子育て支援センターおおしま」として開所しています。同じ3階の事務室には保育総合支援担当である私たち市の職員がおり、保育士、看護師、栄養士がそろっているため、例えば地域子育て支援センターに遊びに来ている利用者から離乳食についての相談があれば、栄養士がすぐ相談にのれるようになっています。

親子が自由に遊べる、3階の「地域子育て支援センターおおしま」
親子が自由に遊べる、3階の「地域子育て支援センターおおしま」

3階には研修室が2つあり、パーテーションを取り払うと100名ほど入れる大部屋にもできるので、大人数が集まる研修やイベント会場として使うこともあります。そして4階の屋上園庭は、「大島保育園」の園児が第2の園庭として使うほか、園庭のない民間保育施設の園児も来て遊ぶこともあります。

一体化したことで、地域子育て支援センターに来た利用者の方が、保育園で子どもたちの様子を気軽に見学できるようになりましたし、研修を受ける保育士さんも、より実践的に学べるようになりました。

4階の屋上園庭
4階の屋上園庭

瀧澤所長:子育て中の保護者の負担軽減やリフレッシュのために「大島保育園」の一時預かり保育を案内することもあります。一時預かり保育は、周囲に子育てを支えてくれる方がいなかったり、ワンオペで子育てをする方もいる中で、病院や習い事で利用する方もいれば、自分の時間を作るために利用される方もいます。少し、自分の時間を作るだけでもリフレッシュできると好評で、定期的に使われる方も多いです。

また、年齢に応じた遊び方が分からないと悩むお母さんには「大島保育園」での体験保育を紹介するなど、同じ場所にあることで以前よりスムーズに対応できるようになりましたし、保育園と地域子育て支援センターの2つの機能が同じ施設内にあることで、利用しやすさも生まれているようです。利用者のニーズに合ったサービスをタイムリーに提供すること で、安心して子育てができるよう支援していきたいと考えています。

子育て講座などを行う3階の「ほっとスペース」
子育て講座などを行う3階の「ほっとスペース」

日常会話の中で気軽に相談できる、地域子育て支援センターの職員

——利用者の声などが届いていたら、一部ご紹介いただけませんでしょうか。

石倉さん:昨年度のデータになりますが、年に1回行っている利用者アンケートでは、「安心して子ども が過ごせる場所」「年齢や子どもの成長に合った遊びができる環境」という項目でほぼ 100%ご満足いただいています。

ただ、昨年度までは感染対策のため、利用者間のコミュニティ作りを積極的に行えなかったためでしょうか「仲間作りや知り合いが増える」という点はあまり評価いただけませんでした。コロナウイルスも5類になった今年度は、利用者のみなさんをつなぐ対面でのイベントや交流会もたくさん行っています。

川崎区の子育てに関する、さまざまな情報を発信
川崎区の子育てに関する、さまざまな情報を発信

また、川崎市の全地域子育て支援センター利用者アンケートのデータによれば、気軽に育児について相談できる相手(場)として、親族、友人に次いで子育て支援センターの職員が挙げられています。これは支援センターの職員が、利用者との日常会話の中でポロっと出る不安や疑問などに対してもていねいに対応をしている効果だと思います。

さらに、子育てをしている当事者同士によるピア カウンセリングの効果もあり、小さな不安を日常的に解消することで大きなストレスを防ぐことができ、気軽な相談場所として利用されていると感じています。

複数の施設情報が一目でわかる「かわさき☆きっず」
複数の施設情報が一目でわかる「かわさき☆きっず」

石倉さん:当施設の利用者アンケートでは「必要な子育て情報を得やすい」点も満足度が高いです。区内には8か所の地域子育て支援センターに加え、保育施設が112か所あります。施設の特性上、子育て家庭に向けた情報が地域だけでなく、時には市域を超えてあがってきます。また、コロナの5類移行後は、区内の保育施設も地域の子育て家庭対象のイベントを再始動しています。

複数の施設の情報を子育て家庭の方が一目で分かるよう1枚のカレンダーに収め「かわさき☆きっず」として発信しています。

南側から見た「川崎区保育・子育て総合支援センター」
南側から見た「川崎区保育・子育て総合支援センター」

石倉さん:利用者アンケートに加えて地域子育て支援センターとしての自己評価も行い、改善が必要な 部分はできるだけ速やかに対応しています。令和4年度は、新規利用者の方に限定したアンケートも実 施しました。「今後も利用したいか」という問いにはみなさん「次回も利用したい」と満足度が高かったです。

改善点としては、施設の入りやすさには工夫の余地があるという点がみえました。入り口に看板は ありますが、外からは 3階の様子は見えませんし、施錠された門を通らないと建物に入れないので、地 域子育て支援センターを利用されたい方が躊躇される様子もありました。これを受けて、南側の道路側の3 階部分に大きく「地域子育て支援センターおおしま」と掲げるようにしたり、門に「開所しています」と掲示するなど工夫をしています。

地域の人々と共に、地域で子育てを支える

おもちゃの衛生管理も徹底されている
おもちゃの衛生管理も徹底されている

——「地域子育て支援センターおおしま」では親子で参加できる講座やイベントが開催されていますが、一例を教えてください。

石倉さん:大きく分けて、職員が企画・開催するものと外部講師・ボランティアを招いて行うものがあります。身体測定、誕生日会、0歳児を対象とした「あかちゃんタイム」などは職員によるもので、親子リトミックやベビーマッサージ、おはなし会などは、地域で活動している外部講師・ボランティアの方にお願いし、地域の方の活躍の場としてもらいたいと考えています。また、多国籍の方が多い川崎区の特徴として「英語で遊ぼ!」というイベントも企画し、多国籍の方との出会い、多文化に触れる機会としています。

子どもたちの遊び場にもなる廊下
子どもたちの遊び場にもなる廊下

——学生向けのボランティア体験や、子育て支援者向けのスキルアップ講座なども開催されていらっしゃいます。取り組まれている意義についてお教えください。

石倉さん:地域の方に子育てに興味を持っていただき、地域全体の子育て力を上げ、地域で子育てを支える事が大切で、そのための人材の発掘・育成も担っています。実際の取組みとして、行っていることが大きく3つあります。

1つ目は次世代の育成です。中学校の出前授業で保育士という職業についてお話ししたり、中・高校生の職業体験を受け入れたりしています。

2つ目はボランティアの育成。地域で子育てに関わりたい方・関心のある方、実際に子育て支援に携わっている方に向けて、見学やボランティア体験、ボランティア養成講座などを行っています。子育ての現場 を見て、知って、関心を持ってくださる方が増えれば、地域で子育てをサポートしてくださる方が増えますので、学生さんからシニアまで間口は広くしています。

3つ目は専門職の育成で、保育士・栄養士・看護師の実習、保健師の見学など専門職を目指す学生等を受 け入れています。

——川崎市は 3 年連続待機児童ゼロと聞きました。川崎市あるいは川崎区として、どんな取り組みをさ れているのでしょうか。

瀧澤所長:今までは、待機児童対策として民間保育施設を増やすことで、待機児童の減少に大きく貢献してきたと思います。ただ、施設が増えると同時に、保育園同士の連携が難しくなったり、保育の質に差が 出てきたり、新たな課題も出てきました。

この課題を克服するために、保育総合支援担当の職員が民間保 育施設を訪問して保育の相談を受けるほか、「子どもの人権」「心肺蘇生法」などテーマを決めて毎年研修 を企画したり、保育園児同士の交流や職員同士の連絡会を行ったりして、保育の質の向上に努めています。

屋上園庭で使われる、幼児向けの乗り物
屋上園庭で使われる、幼児向けの乗り物

——公立と民間の保育施設が連携するモデルケースとして、力を入れていることがあればお教えください。

石倉さん:たくさんある民間保育施設との連携は、区全体の子育て力向上につながりますので、密に連携しています。各施設長の連絡会や、栄養士、看護師、専門職の連絡会、担当別での連絡会など、各年に2~4回ほど実施し、課題の共有や情報交換等を行っています。外部講師を招いた研修や実践技術を学ぶ場を設けるなどもしています。

また、民間の保育施設の中にも在園児の保育だけでなく、未就園児を抱える地域のご家庭にも開かれた 保育施設が増えることで、気軽に相談でき、頼りにできるところが多くなり、地域の中で子育てを支える大きな力ともなります。

——地域の方々、近隣の保育園・幼稚園との交流などはありますか。

石倉さん:先日、富士見にあるコミュニティセンター「川崎区教育文化会館」で「かわさき区子育てフェ スタ」というイベントがありました。その中で、保育施設や地域子育て支援センターなどの他、子育てに 関する多くの関係機関や団体がブースを出し、楽しく遊べるコーナーや子育ての情報、子育て相談や子 育て講座などを開催しました。

乳幼児の子どもたちや保護者、子育てに興味のある方々など、1,000人以 上の方が参加されて大いに盛り上がりました。参加者が楽しみ、必要な情報を得られる場であるとともに、関係団体の交流の場ともなっています。

高齢者の方も多く参加する「川崎区福祉まつり」にも参加予定です。地域のつながりが希薄になっている 時代ですから、地域の幅広い年齢層の方にも現代の子育て状況を伝え、多世代交流の機会になればと思 っています。

地域子育て支援センターや子育てサロンの場所が分かるマップ
地域子育て支援センターや子育てサロンの場所が分かるマップ

個人商店が多く残る、下町気質の温かい人々が暮らす大島エリア

——最後に、川崎区大島周辺の魅力をお聞かせください。

瀧澤所長:「川崎」駅の方に行けば大型の商業施設が建ち並んでいますが、この辺りには小さな個人商 店もまだまだいっぱいあります。そして下町気質というか、人のふれあい残る地域であったかい人が多いように感じます。何十年も町内会長をやっている方、3世代にわたってこの地域にお住まいの方など、長く住んでいらっしゃる方も少なくありません。ここで生まれ育ち、結婚して他所に移った大人たちが、子育てのタイミングで戻ってくるという話もよく聞きます。そんなところに大島の魅力が表れているような気がします。

一方で川崎区には多国籍の方が多くいらっしゃることもあり、多文化交流にも力を入れています。隣接する富士見の「子育てサロンぴよぴよ」では交流なども積極的に行っています。

そして、この辺りの人気 スポットといえば「富士見公園」でしょうか。緑が豊かで大人もリフレッシュできますし、四季折々の自 然に触れて遊ぶことは、子どもの成長にもプラスに影響しますので、園庭のない民間保育園は子どもの 遊び場としてよく利用しています。現在は改修工事中ですが、2024(令和 6)年秋にはさらに、充実して リニューアルオープンする予定です。

未就園児親子に開かれた保育園を増やし、ボランティアの育成に力を入れて 子育て家庭の孤立を防ぐ「川崎区保育・子育て総合支援センター」
未就園児親子に開かれた保育園を増やし、ボランティアの育成に力を入れて 子育て家庭の孤立を防ぐ「川崎区保育・子育て総合支援センター」

川崎市こども未来局 保育・子育て推進部
川崎区保育・子育て総合支援センター

所長 瀧澤祐子さん
課長補佐 石倉江理さん
所在地 :川崎市川崎区大島4-17-2
電話番号:044-201-3319
※この情報は2023(令和5)年11月時点のものです。