スペシャルインタビュー

「すくすく田んぼ」など地域の交流を大切に子どもたちと共に学ぶ「横浜市立十日市場小学校」

十日市場駅から商店街を通って大通りの上を渡り、ゆるやかな丘の道を少しだけ歩いた先に、モダンなコンクリート造りの小学校が現れる。「横浜市立十日市場小学校」は、横浜市内でも珍しい民間の設計による校舎をもつ小学校だ。今回は一風変わった校舎を持ちつつ、公立ならではの地域と一体になった多彩な教育活動を繰り広げている「横浜市立十日市場小学校」の学校長である平田あや先生を訪ね、詳しくお話を聞いた。

学校長の平田あや先生
学校長の平田あや先生

――まず、学校の歴史と沿革を教えてください。

平田さん:本校は1963(昭和38)年の12月に、新治小学校の分校として開設され、昭和40(1965)年の9月に、十日市場小学校として独立開校しました。平成19(2007)年の4月に「横浜市立十日市場中学校」の場所から移転し、新校舎になってからは今年で14年目ということになります。

学校の規模は、6年生だけが4クラス、ほかの学年は3クラスで、特別支援学級も含めれば25学級ありまして、児童数は630人になります。ここ数年は、あまり人数の増減はありませんが、学区内に大きなマンションが建設されて今後は児童数も増えていくかと思います。

――学校の教育目標を教えてください。

平田さん:本校の教育目標は、「ゆめ・希望・共生 笑顔いっぱい十日市場小」というものになります。まず、子どもたちが目標をしっかりと掲げて、希望を持って学校生活を送れること、いろんなお友達と仲良く活動できること、そして、学習や学校生活の中で「わかった」「できた」「お友達とうまくいろんなことができた」ということで、「笑顔がいっぱい」になるということを目指しています。これは開校以来、本校がずっと大事にしている学校目標です。

――ガラス張りの壁や開放的な空間設計など、公立の小学校としてはかなり斬新なデザインが取り入れられた校舎ですね。その理由と、校舎の特徴を教えてください。

平田さん:本校はPFI(Private Finance Initiative)という方式で、民間企業が建てた建物に、市が間借りをしてつくられた学校です。それもあって教室が仕切りがほとんどないオープンスペースになっているなど、少し変わったデザインになっています。広い廊下スペースの「フロア」は、学年100人くらいならいつでもすぐに集まれる広さがあるので簡単な集会をしたり、大事なことを学年全体に伝えたい時などにも活用しています。

様々な場面で活用されている「フロア」
様々な場面で活用されている「フロア」

平田さん:最初はまったく仕切りのない形でやっていたので、エアコンがなかなか効かず、夏場の教室が暑かったり、冬もなかなか温まらないということで、問題視されたことがあったそうです。今は教室と「フロア」の境にアコーディオンカーテンが付けられまして、必要に応じてそれを使っています。隣の教室の音は、集中していればほとんど気にならないみたいですね。

ほかにも体育館が広々とした全面採光の形の建物ですし、校舎全体についても、窓が多く、壁も少ないので開放的なとても明るい空間だと思います。職員室までガラス張りになっているのも面白いですよね。児童たちが中学校にあがると、「あ、壁があるんだ」って驚くみたいです(笑)。

オープンスペースになっている教室
オープンスペースになっている教室

――全校で行っている稲作学習が大きな特徴になっているそうですね。詳しくお聞かせください。

平田さん:「すくすく田んぼ」の活動では、全学年で役割分担を決めてお米を育てるところから食べるところまでを地域の方と一緒になって行っています。本校の学区の中に、田んぼが広がっている地域があるのですが、20年ほど前に地域の方が、「子どもたちの教育をぜひ一緒にやりましょう」と田んぼの1区画を学校に貸し出してくださり、それから長くお世話になっています。

――それぞれの学年で、どんな役割を分担しているのでしょうか?

平田さん:本格的に活動するのは2年生からで1年生は上級生の応援からです。2年生がもみから苗を育て、4年生がしろ掻きとあぜ塗りを、5年生が田植え、6年生が夏の草取り。3年生が脱穀・もみすり。5年生が収穫をする、という分担です。3年生は収穫のあとの脱穀をやっています。そして最後に、5年生が主になって餅つきをやって、全校でお餅を美味しく食べています。

とはいえ、子どもたちだけで全部はできませんので、普段のいろんなお手入れや水の管理などについては、地域の方にすごくお世話になっています。地域の方にとっても決して簡単なことではないと思うのですが、「子どもたちのためだから」ということで頑張ってくださっています。「田んぼの誰々さん」と言えば、子どもたちも顔とお名前をよく知っているような関係ですし、高学年になると、その田んぼの活動から、総合的な学習の時間の課題を立ち上げたりして、地域との交流を上手に教育活動の中に取り込むことができているのかなと思います。お米作り以外の部分でも、人との関わりを学ぶという部分も大きくて、この地域のことが大好きになれる意義のある学習活動だと思っております。

――ほかにも、力を入れている教育活動や課外活動があればお聞かせください。

平田さん:子どもたちの学習や安全を支えるボランティアの方々にたくさんお世話になっています。やはり1クラスに40人の児童がいるわけですから、教師一人で全てを見守ることはとても大変です。ほんのちょっとのヒントをもらえるだけで、勉強をもう少し頑張れたり、学習に集中できるようになったりすることがあります。学習支援ボランティアの方を「T2」というサポートの形をできるだけ多く取れるように工夫しています。

主に学生ボランティアの方にお願いしていますが、ほぼ毎日、誰かしらは来てくださっています。T2の先生がいることで、授業中も子どもたちが気軽に声を掛けられるような体制です。

――T2が学生さんだと、子どもたちも身近に感じてくれそうですね。

平田さん:そうですね。子どもたちは、「昼休みに一緒に遊んでくれる先生」とか、「困った時にヒントをくれる先生」みたいに思っていて、すごく親しんでくれています。去年も「実はこれで先生とお別れなんだよ」って話したら、号泣してしまう子がいましたね。ボランティアさんの中には教員を目指しているという学生さんも多いんですがけれど、「ここに来て教師になる決意が固まりました」と言ってくださる方もいました。子どもたちとの関りを通して、いろんなことを学んでくださっているみたいですね。

広々とした校舎内
広々とした校舎内

――学校行事について、特徴的なものがあれば教えてください。

平田さん:大きなものは運動会ですけれども、今年度はコロナの影響で規模を縮小して、ダンスと徒競走だけで行いました。ただ、そんな中でも、それまで一切、学年で集まることもできなかった中で、運動会の練習の時に初めて学年全員で集まりました。子どもたちが本当に真剣なまなざしで運動会をやり遂げ、「心をひとつにして取り組む」ということの素晴らしさをしみじみ感じました。

ただ、校庭に全校で集まるということもできませんでしたから、1学年ずつ降りてきて種目に参加するという形の運動会でした。それでも、当日の子どもたちの凛々しい表情を見て、行事の大切さを改めて学ぶことができました。

校庭
校庭

――放課後の学童クラブ等について、概要と利用状況を教えてください。

平田さん:横浜市では小学生が放課後を楽しく安全に過ごせる場所として「放課後児童クラブ」と「放課後キッズクラブ」の2つの事業があります。留守家庭を対象にしているのが「放課後児童クラブ」です。十日市場には、NPO法人運営のクラブがあり、最長で夜の8時までお預かりしています。少人数ならではの、いろいろな実体験を通した学びを展開されていて、毎月、児童クラブさんのおたよりも学校に頂いていますが、子どもたちも楽しそうに過ごしているようです。

これに対して「放課後キッズクラブ」は、在学している児童であれば誰でも利用できます。学校の一室を使って運営されていますが、学校とは別の組織になりますので、夕方5時までは無料ですが、最長で7時まで利用できます。現在300名くらいの児童が登録しています。

どちらも主に低・中学年の児童が利用していますが、特に「放課後キッズクラブ」は「気が向いたら遊びに行く」という気軽な感じですし、土曜日や夏休み期間中もやっていますので、共働きの方には心強い存在だと思います。ここ数年もニーズはすごく増えてきていますね。

――駅から学校に来る途中の道路の壁に、素敵な壁画がありましたね。

平田さん:この壁画は以前、慎吾ママ(香取慎吾さん)が本校に来られて描いてくださったものなのです。少し前まで道路の法面の急斜面だったので、素人では除草ができずにずっと隠れてしまっていたんです。それを見かねたこの地域の方が、「自分たちは本職なんだけれども、ぜひ除草をさせてもらえないか」と声を掛けてくださいました。最初は除草だけのお話だったんですが、木の剪定や、この壁画のところの高圧洗浄までしてくださったんです。すっかり綺麗になって、当時の姿を知っている卒業生の方から、喜びの声なども届いています。

香取慎吾さんが描いた壁画
香取慎吾さんが描いた壁画

――学校の将来のビジョンを教えてください。

平田さん:せっかく地域が協力的な街にある学校ですから、もっともっと、地域の人と関われるような教材開発や、カリキュラム編成をしていきたいな、と思っております。例えば、国語の学習で「リーフレットを作ろう」という単元では、例えば地域に発信したい内容をテーマに作成し、実際に地域のどこかに置いてもらうような形にできたら、子どもたちもより意欲的になって、学習の質も上がると思うんです。実際にそれを今年やった学年がありますが、それを見てくださった地域の方が感想の声を寄せてくださったりして、子どもたちも「やって良かったな」という思いを持つことができました。今後もそういった双方向で地域と関われるカリキュラムを充実させていきたいと思っています。

――子どもたちに、将来どんな人に育ってほしいとお考えですか?

平田さん:自分のことも大事にでき、まわりの人のことも大事にできる子に育ってほしいです。自己有用感や自己肯定感がしっかりとあって、自分自身のことも「ここはちょっと苦手だけど、ここはいいんじゃないかな」と認めて、自分を好きだと思える。その上で周りの人も大事にできる。そういった子どもたちになってもらいたいなと思っています。

子どもたち一人ひとりとの関わりをを大切にされている平田先生
子どもたち一人ひとりとの関わりをを大切にされている平田先生

――最後に、十日市場エリアの、子育て環境の魅力についてお聞かせください。

平田さん:子育て関連ということでは、やっぱり、自然が豊かなところでしょうか。「新治市民の森」も近いですし、横浜市にありながら、これだけ自然環境が豊かにあるというのは、十日市場の魅力だと思います。そもそも、田んぼが歩いて行ける距離にあるということがすごいことですよね。また、年代を問わず「つながり」を大事にしている街で、地域の方々の子どもたちに対する視線がすごくあたたかな街ですので子どもたちにとっても暮らしやすい街なんじゃないかと思います。

横浜市立十日市場小学校

校長 平田あや先生
所在地:横浜市緑区十日市場町1392-1
電話番号:045-981-0420
URL:https://www.edu.city.yokohama.lg.jp/school/es/tookaichiba/
※この情報は2020(令和2)年12月時点のものです。