多世代が集う「港北区地域子育て支援拠点どろっぷ」産前産後を静かに過ごせる「産前産後のおうち」
横浜市は全18区に子育て支援の拠点を設置している。そのひとつ「港北区地域子育て支援拠点どろっぷ」を運営する「認定NPO法人 びーのびーの」は、産前産後にスポットを当てた民間デイサービス「産前産後のおうち」も展開している。同法人の栃本麻由さんと伊香朗子さんに、2施設の取り組みや大倉山の子育て環境などを伺った。
学生やシニアなど多世代が交流する場所
――「子育て支援拠点どろっぷ」の歴史や概要をお聞かせください。
栃本さん:コンセプトは「子どもがまんなか みんなで子育て」。就学前の子どもとその保護者のための施設で、2006(平成18)年にオープンしました。港北区は横浜市の中でも出生数が多く、その後出生数が多い区から順にできたサテライトも、2015(平成27)年に港北区にできたのが初めてでした。育児相談やプログラムを申し込める、つまり登録できるのは市内在住者だけですが、ひろばは予約も不要ですし市外在住者も使えますので、市外のお友だちと一緒に遊んでいただいてかまいません。日によって差はありますが、現在は一日60組前後の方が利用しています。
――利用方法についてお聞かせください。
栃本さん:以前は初来館時にカード発行して毎回持参していただいていましたが、今年4月から子育て支援拠点の入退館のシステムが変わり、各利用者が発行した二次元コードを入口でかざす方法になりました。7月から子育て情報を集約した横浜市の子育て応援サイト「パマトコ」が始まり、この入退館システムと連携しています。二次元コードは、「パマトコ」内にある子育て支援拠点のページで入手できます。なお「パマトコ」は今後アプリ化して子育て支援拠点のプログラム予約などもアプリ上でできるようになる予定です。
――施設の特徴についてお聞かせください。
栃本さん:多世代が交流する場である点が特徴です。利用対象のお子さんは就学前の子どもですが、切れ目ない支援のため、小学生になっても来たい子にはボランティアとして来てもらっています。少し大きい子が同じ空間にいるだけで乳幼児には大きな刺激になります。小学生も一緒に遊べるものをと考え、今年は玉入れを買いました。小学生になると遊びを盛り上げるのも上手になりますし、やはりみんな子ども同士で遊べるのが楽しいようです。
開設から19年目を迎え、最近は幼児期をどろっぷで過ごした子たちが高校生や大学生になってボランティアとして来てくれるケースが増え、嬉しい限りです。庭の管理や野菜作りなどを手伝ってくださるシニアボランティアもいます。今日も84歳の男性が来られましたし、昨年引退されましたが、94歳の方も畑で野菜を育てていました。利用者と一緒に畑で野菜を収穫するなど自然な交流があります。乳幼児親子に加え、小学生やシニア、高校生や大学生、中年の職員もいる。多様な世代、多様な人が集う場所であることを大事にしています。
「乳幼児の気持ち」を大切にする取り組み
――保護者向けの取り組みについてお聞かせください。
栃本さん:育児相談や自主活動などがあります。自主活動は親(利用者)たちがやりたいこと実現させるサークル的なもので、いまは2つあります。ひとつは、職員とコアな利用者さんでどろっぷの未来を考える「どろっぷみらいカフェ」。未利用の方に来ていただける方法を考えて実行しています。もうひとつは「ママヨガ ママジョグ」。2階にある研修室に集まり、半数の参加者は出かけて鶴見川の土手を新横浜の方まで40分ほどジョギングを楽しみます。その間、残った半数の親たちが子どもの面倒をみる。それを交代でやるというものです。雨の日はヨガをやっています。
――子どもたちの過ごし方や利用者の声など、一時預かりの詳細を教えてください。
栃本さん:名称を「ひととき預かり」と呼んでいます。同時に預かるのは3人までですが、一日最長4時間ご利用いただけます。日によって違いますが、一日6~8人ぐらいのお子さんの利用があります。毎月最初の開館日に翌月の予約受付を始めています。去年までは予約開始日に1人2枠まで予約できるようにしていましたが、わずか3分で1カ月分が埋まる状況で、今年度から初日は1人1回分の予約の形に変更しました。夜になっても空きがあるので、早い時間に予約できない人も予約できるようになりました。「月に1回預けられるだけでも、その日を糧に頑張れる」と言ってくださる方もいます。なお、Web予約とは別に電話予約の枠も設けているため、ネットの使用に抵抗のある方も安心です。また、当日に空きが出た場合はInstagramでお知らせしています。
慣れるまでは泣く子がほとんどですが、3年間の経験から言って必ず慣れます。時間のかかるお子さんもいますが、絶対に慣れます。「子どもがまんなか みんなで子育て」というコンセプトには、子どもの気持ちを大事にしたいという想いが込められています。ひととき預かりで預かりをする子の7割は、まだお話しすることができない0~1歳児です。どうして泣いているのか、何が好きなのかなど探りながら、できるだけ子どもが望むように過ごせるよう心がけています。専用の部屋ではなく見知った職員や利用者さんがいるひろばで預かりをしているので、子どもたちは安心できると思います。
悲しい出来事を減らしたいとスタートした、妊産婦の居場所づくり
――昨年新たにこちらの「産前産後のおうち」をスタートされたそうですね。設立の経緯や独自の取り組みをお聞かせください。
伊香さん:子育てにおける切れ目のない支援を目指す中、以前から産前産後期の支援がすっぽり抜け落ちていることが課題でした。産後は体を休めたいし、子どもも2~3カ月くらいになるまではなかなか家から出られません。でも、ようやく家を出られるようになってどろっぷに行く頃には使える産後のサポートは終了していたりします。コロナ禍では4人に1人が産後うつと言われ、2022(令和4)年には妊産婦の自殺が全国で65件ほどありました。新生児の遺棄や乳児の虐待などもあります。私たちが産前産後期に何かサポートできることがあるのではないかと考え、休眠預金活用事業として調査研究を3年間行いました。みえてきたのは、産後期は「とにかく眠りたい」「人としゃべりたい」「誰かに相談したい」といった切実な願いでした。そこでその要望に応える場をつくることにしました。
どろっぷのような元々ある施設を利用した案も検討しましたが、気力も体力も落ちている産後期の人が拠点を利用する元気なママたちと共存するのは難しいという結論に至りました。そこは転換点でしたね。行政では補完できない機能というか。静かに休めるこぢんまりとした一軒家にスペースを確保しました。3カ月間のトライアル中、妊娠中に来て産後1ヶ月でまた来られた方がいらして、「ここなら安心できる」と言っていただけるなど手ごたえを感じ、2023(令和5)年度からは「赤い羽根福祉基金」の助成金を活用して本格的な運用に踏み切りました。
利用対象者は妊婦さん、もしくは0歳児とその家族。区内2か所の一軒家で、併せて週4日開催しています。定員は5組。基本は午前10時~午後3時までですが、ご連絡いただければ遅れて来たり早めに帰ったりするのもOKです。昼食、ドリンクバー付きで2回目までは2,500円、3回目以降は5,000円です。
――開設から1年と少し経ち、手ごたえや課題などどうお感じになっていますか。
伊香さん:しゃべったり眠ったりを1日過ごす中で行ったり来たりできること、自分一人で子どもと向き合わなくていいことなど、サービス内容は利用者の方々に喜ばれています。大勢の人が苦手なのでこぢんまりとした規模感を気に入ってくださる方もいますし、0歳児だけという点に安心される方もいます。課題は、この施設がまだ全然知られていないことです。どろっぷのような区の施設と違って、民間のデイサービスだと周知がなかなか難しくて。また、利用者の親子と職員の組み合わせによって雰囲気が毎回違うので、一人になりたくて来る人、おしゃべりしたくて来る人など、どうしたら全員の満足度を上げられるか日々模索しています。
人とのつながりが強く、子どもや子連れに優しい大倉山エリア
――地域の方と連携して取り組んでいることがあれば教えてください。
栃本さん:町会の方々に非常にお世話になっています。特に毎年6月に防犯拠点センターで行うイベント「どろっぷデー」では、出店の手配や18あるテントの組み立てなど町内会の協力なしでは開催できないくらい力を貸していただいています。他にも民生委員、スポーツ推進委員、青少年指導委員など地域の皆さまに協力いただいています。7~8年前からは「大綱中学校」のふれあい体験授業にご協力させていただき、生徒さんに赤ちゃんの抱っこなどを体験してもらっています。今年の夏休みにボランティアを申し出てくれた子の中にも大綱中出身の子がいて、ふれあい体験のことを覚えていて嬉しかったですね。
毎年夏には、港北区在住・在学の中高生や大学生を募集して保育園や子育てひろばなどでボランティア活動をしてもらう「ボラリーグこうほく」を開催していて、どろっぷがコーディネートを担っています。今年は70人を超える応募があり、保育園など80ほどの団体が受け入れを承諾してくださいました。他にも盆踊りや大綱中で行われる「健民祭」、鶴見川に近い下町で開催される相撲大会などイベントは多く、どれも地域の人が助け合って行っています。子どもたちのために、という強い気持ちを持った方がたくさんいらっしゃいます。
――大倉山エリアの魅力をお聞かせください。
伊香さん:子どもが多いエリアだからでしょう。子どもやママ、妊婦さんに優しくするのが当たり前のような雰囲気がすごくいいなと思っています。横浜市には「ハマハグ」という子育て応援事業があって、協賛施設であることをアンパンマンのマークで示しているのですが、大倉山にはそのマークがあるお店がたくさんあるんです。そういうところはベビーカーのまま入店できたり、おむつ替えができたり、商品が安く買えたり、子連れを歓迎してくれる感じがあって嬉しくなります。店主さんのこだわりが感じられる個人店が多いのも魅力です。スイーツ店の「hidamari」には、カットされて子どもでも食べやすいりんご飴があって、おいしいですよ。
栃本さん:高い建物がなく、坂が少ないところがいいですね。ショッピングモールのような大きな商業施設がない分、個人のつながりが強いところも気に入っています。映画の撮影にも使われる「大倉山記念館」や、「大倉山公園」の梅林も素敵です。咲き始めの方が香りがいい気がするので、いつも1月下旬とか早いうちに行くようにしています。個人的におすすめしたいのは和菓子屋さん。白玉ぜんざいやお団子がおいしい「わかば」、梅のどら焼きやキレイな練り切りが魅力的な「青柳」などがおすすめです。
――最後に、このエリアに今後お住まいになられる方に向けて、お知らせやメッセージをお願いします。
栃本さん、伊香さん:常設の子育て支援拠点がある大倉山は子育て支援団体が多く、子育て世帯に優しいエリアです。横浜では珍しく平坦なので、電動自転車がなくても困らないと思います。港北区は転勤など転出入の多い区で、市外・県外から来られた方が多くいらっしゃるので、新たにこの地に住む方も住みやすいと思います。

港北区地域子育て支援拠点どろっぷ
ひろば担当 栃本麻由さん(左)
所在地:神奈川県横浜市港北区大倉山3-57-3
電話番号:045-540-7420(NPO法人びーのびーの)
開館時間:火曜~土曜日 9:30~16:00 2カ月に1度は日曜日も開館
休館日:日・月曜日、祝日、年末年始、特別休館日
URL:http://www.kohoku-drop.jp/
産前産後のおうち Rojiハウス
社会福祉士・保育士 伊香朗子さん(右)
所在地:神奈川県横浜市港北区大豆町40-2
電話番号:045-540-7422(NPO法人びーのびーの)
開催時間:火・水・木曜日 10:00~15:00
※この情報は2024(令和6)年8月時点のものです。