感動体験と人との出会いが、子どもを成長させる 「鎌倉てらこや」の活動に込めた想いを紐解く
鎌倉市大船に拠点をおく「鎌倉てらこや」は、近隣大学の学生をボランティアメンバーとして迎えつつ、地域の小中学生を対象にしたさまざまな活動を行っているNPO法人だ。体験イベントを行ったり、お寺を使って大規模な合宿をしたり、日常的には子どもたちの居場所を提供したり、学童施設に出張して一緒に遊んだりと、多彩な内容になっている。そして、鎌倉に始まったこの「てらこや」活動は、現在全国約40か所に広がっているという。
今回はこの「鎌倉てらこや」の事務局がある「大船」駅前の「てらハウス」を訪ね、事務局長の小木曽駿さんに、活動に込めた想いと実際の活動内容、参加する子どもたちや学生の反応、地域との関わり、大船エリアの魅力などについて、幅広くお話をうかがった。
「鎌倉てらこや」が大切にしていること
――まずは、認定NPO法人である「鎌倉てらこや」が生まれた経緯と、コンセプトについてお聞かせください。
「鎌倉てらこや」の設立は2003年で、「不登校・引きこもりや、それに類する困難な状況を未然予防する活動」という目的で始まりました。きっかけは、兵庫県の「生野学園」を創立された森下一(もりした はじめ)先生が鎌倉に来られて、講演をされたことからでした。「子どもたちや親御さんが困難な状況になる前に、地域の大人たちや学校などが連携して、子どもたちが生きやすい環境を作ることができる」という森下先生のお話に賛同する人たちが集まり、NPO法人として立ち上げられたということです。森下先生も含め、鎌倉市内のさまざまな方々で、まさに「鎌倉の街ぐるみ」で活動が始まりました。
コンセプトについては、私達が活動で大切にしていることはふたつあります。ひとつは「感動体験」、もうひとつは「良き人との出会い」です。「感動体験」については、「何かをやり遂げることができた」という自信を、ひとつひとつ身につけていくこと。またその中で、一緒にそれを成し遂げていく仲間としての大学生スタッフを身近に感じながら、「こういうお兄さんになりたい」といった「憧れ」を持ってもらう、「良き人との出会い」です。そのような成功体験や目標意識が、子どもたちの成長につながっていくのではないだろうか、というのが基本的な考え方になっています。
鎌倉ならではの“感動体験”
――現在は建長寺での合宿事業をはじめとして、鎌倉ならではの“感動体験”ができる、さまざまな事業を展開されていますね。どのようにして、これらの活動を広げてきたのでしょうか?
「鎌倉てらこや」を組織して最初に行ったのは、建長寺さんでの2泊3日の合宿事業です。当時、この合宿事業を行う上で「子どもたちと共同生活をして、見守り、はぐくみ、一緒に育っていく存在」が必要ではないだろうかと考えまして、活動に関わっていた早稲田大学の池田雅之教授を通して、大学生にも合宿に参加してもらうことになった、というのが始まりです。実は私も当時早稲田の学生で、2回目の合宿に参加したメンバーの一人でした。
何回か建長寺の合宿をしていく中で、子どもたちから「また会いたい」とか「今度いつ会えるの?」という声が増えていって、年に1回の合宿だけではなく、鎌倉という地を生かしたさまざまな体験事業を行おうということになりました。陶芸家である河村喜史先生に陶芸を教わる体験、朗読の先生から朗読を教わる体験、「鎌倉博士」の大貫昭彦先生と一緒に歩く鎌倉散策といったものをはじめ、海で遊ぶイベント、地元のお祭りへの参加など、いろいろな人との出会いの中で増えていきました。今では週に1回くらいの頻度で行うようになっていまして、その中で関わる大学生の数もずいぶんと増えました。
――合宿や体験イベントなどには、応募すれば誰でも参加できるのでしょうか?
小・中学生なら誰でも参加できます。ただ、応募を待つだけではなく、週に1回程度ずつ、学生たちが何人かチームになって鎌倉市内の16ある学童保育の施設に遊びに行くという活動をしています。そこで知り合った子どもたちが、イベントにも参加してくれています。
――イベントにはそれぞれ、その分野のスペシャリストが関わっているそうですが、どのようにして協力を取り付けているのでしょうか?
これはもう本当に「ご縁」なんです。陶芸の先生については、立ち上げの時のメンバーの方の一人ですし、朗読の先生は支援者の紹介で来ていただいています。活動の場所に関しても、立ち上げをされた方とのご縁の中で、建長寺さん、円覚寺さん、妙本寺さんなどにご協力をいただいています。
子どもたちの居場所「てらハウス」
――合宿やイベント事業のほか、こちらの「鎌倉てらこや」の事務局スペースも、放課後の「居場所」として日常的に使われているそうですね。
ここは「てらハウス」と呼んでいるのですが、子どもたちと継続的に関わりながら信頼関係を築いて、自立の方向にもっていくには、「居場所」が必要だと思っていますので、ここをフリースペースの場所として活用しています。今は新型コロナウィルス感染防止のため「てらハウス」内で過ごすことはせずに、いったん集まって屋外に出ていく感じになっていますが、コロナ前は、マンガや本を読んだり、ボードゲームをやったり、宿題をしたり、あるいは何もやらなかったり、自由に過ごしていました。
――決まった何かをやる場所ではないのですね。
基本的にここは「何をしてもいいし、何もしなくてもいい」という場所なので、子どもたちひとりひとりに合わせて、その時にいる大学生が「どういうふうに過ごす?」って導いていく感じですね。
子どもたちも学生も成長する有意義な活動
――学生さんは全員ボランティアということですが、どういうきっかけで「鎌倉てらこや」に集まってくるのでしょうか?
当初は私も含む早稲田の池田ゼミ生が中心だったのですが、だんだん活動が増えてきて、「てらハウス」もできたので、2009年くらいからは近隣の大学、具体的には大船の鎌倉女子大学、戸塚方面の明治学院大学と横浜国立大学、最近は神奈川大学なども含めて、いろいろな大学から来てくれています。新歓の時期に勧誘に行ってメンバーを募って、そのあとは学生さん同士で声をかけてもらっています。
――イベントの時には、かなりの人数の学生さんが参加して、子どもたちをサポートしてくれるそうですね。
イベントの種類によっても違うのですが、私達が主催するイベントは、基本的に子どもたち1人か2人に対して、学生が1人付くくらいの割合で活動をしています。日々の学童保育のサポートに関しては、子ども30人~40人につき、学生5人くらいという形で入っています。
――イベントに関して、参加した子どもたちの反応、保護者の方の反応はいかがですか?
親御さんからは、合宿が終わった後に、「今までごはんを食べても何も言わなかった子が、いただきます、ごちそうさまをしっかり言って、お茶碗を片付けてくれるようになった」といった声が多く聞かれました。また、コロナ状況下、「家で過ごすことが多い中、イベントを開催してくれるのはすごく有難い」という声もあります。
子どもたちからは、合宿の後にアンケートで5点満点の評価に「100万点楽しかった」なんて子もいました。継続して参加してくれている子がすごく多いということが、子どもたちからもらっている一番の評価なのかな、と思っています。
――学童保育に参加する「放課後サポート」の話もありましたが、こちらに関して、子どもたちの反応、学生さんの反応はいかがですか?
学童に関しては、各施設に私達が行くのは週に1回くらいの頻度ですが、子どもたちはその1回を「特別な日」という感じで、すごく楽しみにしてくれています。習い事の日をわざわざずらして、その曜日は学童に来る、という子もけっこういるみたいです。
実際にあったエピソードだと、小学生と大学生が将棋で勝負をするということがあって、最初は当然、小学生がぼろ負けしてしまったのですが、しばらく会えなかった間に、その子は家でお父さんやおじいちゃんを相手にすごく練習をしていて、久しぶりに会ったその大学生と、「また将棋やろうぜ」と言って勝負をしたら、今度は小学生が勝ってしまった、といった話もありました。
そういう例はほかにもけっこうあるのですが、「あのお兄さんに勝ちたい」「あんなふうになりたい」という身近な目標を見つけて、何かを成し遂げていくことは、大学生との関わりの中でこそ生まれるものだと思っています。親や先生とは違う視点から見守って、サポートをしてくれるので、「近所のお兄さんお姉さん」みたいな形で懐いてくれていますね。
学生の側も、そういうふうに子どもたちに求められることは貴重な機会だと思います。子どもたちと関わる中で、一緒に失敗や成功を積み重ねながら、自分自身に自信をつけているという部分もあると思うので、子どもたちをメインに据えた活動ですが、実はいちばん成長しているのは学生たちなのかもしれないですね。
地域との関わりで育つ「鎌倉愛」
――地域との関わりや、地元の人々との「協働」も大切にしているそうですね。どのような関わりや活動があるか教えてください。
やはり、こういう地元密着の形で活動をしていると、「地域の祭りを手伝ってくれないか」とか、「若い力を貸してほしい」という声はよくいただきます。目の前の「大船仲通り商店街」で毎年行われる「大船まつり」をお手伝いしたり、「鎌倉てらこや」としてブースも出させてもらったりしています。「大船to大船渡」という震災復興支援イベントにも協力させていただき、大船渡から届いたサンマを大学生たちが焼いて、来場者の方に振る舞ったこともありました。
また、建長寺さんで毎年合宿をやらせていただいているお礼に、開山忌の前に子どもたちとお寺の掃除のお手伝いをしていますし、建長寺さんが主催されるお祭りの時にも、いろいろな形でお手伝いさせてもらうこともあります。
――さまざまな活動を通して、子どもたちの中に「鎌倉愛」が育っている感触はありますか?
それはあると思いますね。実は、私自身も鎌倉の腰越出身ですが、この活動をするまでは、建長寺さんにも行ったことがなかったんです。そういう意味では、鎌倉に暮らしている子どもたちでも、お寺とか、歴史、自然、伝統などに触れずに過ごしてきている子は多いと思うので、そういう場面に触れたり、体験したりするということは大切にしています。
大船エリアの暮らしの魅力
――最後に、大船エリアの魅力について教えてください。
私が思う大船の一番の魅力は、「てらハウス」が面しているこの「大船仲通り商店街」です。表通りだと多くのチェーン店があるのですが、ちょっと裏に入ると、昔から営業している青果店や鮮魚店がけっこうあって、呼び込みの声が聞こえて、すごく活気があります。地元密着型の美味しい飲食店も多いので、そういうところも魅力的だと思います。
それから、特にこの商店街近辺に関しては、地元意識の強い方がとても多いです。「大船まつり」のようなお祭りや、さまざまなイベントの開催によって、地元の人同士がつながっているので、地域みんなが支えあう、あるいは子どもたちを地域で見守っていくという環境があるのかなと思います。
――生活や交通の利便性についてはいかがですか?
「大船」駅については、JR横須賀線に乗ればすぐに北鎌倉や鎌倉に行けますし、モノレールに乗れば江ノ島方面や湘南方面にも行けますし、鎌倉・湘南エリアを身近に感じられる、「窓口」のような駅だと思います。もちろん、東京都心方面にも出やすいので、すごく便利ですね。
周辺環境についても、鎌倉や湘南はもちろん、大船だけを見ても、大船観音があったり、ちょっと行けば六国見山があったり、自然が身近にある場所なので、子育て世代の方にはかなり楽しめる街だと思います。
――おすすめのスポットはありますか?
大船エリア限定だと、「日比谷花壇大船フラワーセンター」がおすすめです。年間を通じてさまざまなイベントをやっていて、ハロウィンの時期には巨大カボチャが登場し、夏の早朝には蓮の花を見ることもできます。入場料も安いので、小さなお子さんと遊びに行くのにはピッタリだと思います。あとはやっぱり、この「大船仲通り商店街」ですね。子連れでも安心して歩けますし、昔ながらの雰囲気が、個人的には大好きです。
NPO法人鎌倉てらこや
事務局長 小木曽駿さん
所在地: 鎌倉市大船1-25-23千里ビル3階
電話番号: 0467-84-9746
URL: https://kamakura-terakoya.net/
※この情報は2021(令和3)2021年11月時点のものです。