2019(令和元)年度新設、子どもたちを温かく見守る小学校

木のぬくもりが感じられる学校で“豊かに生きる”子どもたちを育む「川崎市立小杉小学校」

再開発等による周辺地区の人口増加に伴い、2019(平成31)年4月に新設された「川崎市立小杉小学校」。木をふんだんに使った新しい校舎には、廊下と一体になった教室空間やゾーンごとに分けられた機能的な学習環境、全館に整備されたWi-Fiなど、幅広い学習活動を可能にするための充実した環境が整っている。 開校から4年目を迎えるいま、「小杉小学校」ではどのような取り組みが進められているのか、令和2、3年度に教頭を務め、令和4年度より校長として学校経営に取り組む吾妻典子校長先生にお話を伺った。

「川崎市立小杉小学校」 校舎全景
「川崎市立小杉小学校」 校舎全景

2019(平成31)年4月に新設された「川崎市立小杉小学校」

――「川崎市立小杉小学校」の概要についてご紹介ください。

吾妻校長「川崎市立小杉小学校」は2019(平成31)年4月に開校しました。小杉駅周辺地区のまちづくりに伴い人口が増加し、児童数のさらなる増加も見込まれたため学校が新設されることになりました。本校の学区は小杉2丁目と3丁目になりますが、「西丸子小学校」と「今井小学校」からそれぞれ転入を希望する児童が集まり357名でスタートしたようです。

この4年間で新しいマンションなどの建設が進み、現在は開校当時の倍近い学校規模となっています。通常学級23クラスと特別支援学級3クラスの計26クラス、714名の子どもたちが一緒に学んでいます。

今後の推計としては人口の流入が続き子どもたちの数も増える見込みのようで、児童数が1,000名を超えるのではないかとその推移を見守っているところです。

新しいマンションなどの建設が進み、開校当時の倍近い学校規模となっているという
新しいマンションなどの建設が進み、開校当時の倍近い学校規模となっているという

メジロカバやスギ、ヒノキなど全国の木をふんだんに使った校舎

――新設された校舎の特色についてお聞かせください。

吾妻校長まず本校には木がふんだんに使われておりまして、廊下はもちろん天井や壁、各教室の案内板など、ぬくもりを感じられる空間になっています。さらに全国の木が使われているのも特徴で、北海道のメジロカバや秋田、宮城、埼玉、神奈川、宮崎県のスギ、群馬県、徳島県のヒノキなどが使われているようです。

児童たちにとっての教室、学校施設というのは1日の大半を過ごすところなので、それにふさわしい豊かな環境づくりを目指して木が多く用いられているようです。

校舎内のいたるところで、木の温もりを感じられる
校舎内のいたるところで、木の温もりを感じられる

ゾーンごとに機能や目的が集約され、幅広い学習活動を展開

――施設・設備面の特色についてもご紹介いただけますでしょうか?

吾妻校長機能や目的ごとに校舎がいくつかのゾーンに分かれていまして、1階の「地域・家庭科ゾーン」には地域ラウンジ、多目的ルーム、家庭科室がありひとつの空間としてまとまっています。

地域ラウンジというのは、地域の方に学校施設を利用してもらうことを想定して設計されたスペースで、机や椅子、ホワイトボードなどが設置されています。また多目的ルームとつなげることで大人数の集まりにもご利用いただけます。

次に2階の「メディアゾーン」ですが、図書室とパソコンルームがつながっています。パソコンルームの机はキャスターが付いているのでグループ活動にも適しています。また図書室前はギャラリースペースになっていて、子どもたちの作品を展示できるようになっています。

子ども達も過ごしやすい、図書室の様子
子ども達も過ごしやすい、図書室の様子

さらに2階の東側には「ミュージックゾーン」もあり、音楽室と「小杉ホール」と名付けられた天井の高い部屋があります。音響にも優れているので楽器の演奏や合唱で利用する機会も多く、子どもたちにとって「ここで発表したいな」と意欲的な気持ちにさせる部屋として活用されています。

続いて3階に上がると、「アート・サイエンスゾーン」があり、図工室、理科室、ギャラリースペースがつながっています。図工室や理科室からはテラスにも出られるようになっていて、室内だけにとどまらない実験的、体験的な学習が可能になっていると思います。

開放的なスペースで、実験的・体験的な学習ができるテラス
開放的なスペースで、実験的・体験的な学習ができるテラス

――普通教室にはどのような特色がございますか?

吾妻校長教室と廊下の間には壁や仕切りが無く一体的なつくりになっています。必要に応じて使えるように可動式のドアは設けられていますが、開放することによって実験や様々な活動の場として廊下もフル活用されています。

この仕切りがない教室というのは人間関係にもつながるところだと考えておりまして、子どもたち同士もおたがいに壁をつくらず付き合っていけるようなそんな空間になっているかと思います。

教室と廊下の間には壁や仕切りがなく、開放的な空間が広がる
教室と廊下の間には壁や仕切りがなく、開放的な空間が広がる

もうひとつ特徴的なのは、2階にある1年生の教室です。1階の昇降口を通らずに外階段を使って直接教室に行けるようになっているため、抵抗感なく教室に入れるようなつくりになっています。さらに教室の一角に半畳ほどのスペースで、「デン」という部屋が設けられています。例えば、授業中に気持ちが昂ってしまったお子さんが少し気持ちを落ち着かせたい時などに役立っているようです。

他にも各教室にプロジェクターが設置されていて、黒板のスクリーンに映せるようになっていたり、廊下の壁にも黒板があり発表などに活用されています。

さまざまな発表を共有できる廊下の黒板
さまざまな発表を共有できる廊下の黒板

「自分をつくる」「ともに学ぶ」「わたしたちの小杉」を目標に掲げ、人と人がつながる温かな環境を目指す

――学校の教育目標についてもお聞かせください。

吾妻校長本校は「豊かに生きる」を教育理念として、木のぬくもりが感じられる学校施設を生かしながら、子どもたち一人ひとりが夢や希望をもって生きがいのある人生を歩み、豊かに生きていけるよう願っています。また学校教育目標にもあるように「自分をつくる:自ら学び 自分を振り返る子」「ともに学ぶ:違いを認め 力を合わせる子」「わたしたちの小杉:役割を担い 学校をつくる子」が三位一体となって、人と人がつながる温かな環境になっていくことを目指しています。

人と人がつながる温かな環境を目指す
人と人がつながる温かな環境を目指す

具体的な取り組みとしてはGIGA端末を有効活用した授業や学び合いのできる学校づくりを進めています。GIGA端末を辞書のように疑問や調べてみたいことなどを調べる一つのアイテムとして活用しています。GIGA端末の様々な機能を学習の中に組み込んで、子ども自身が自分で扱い学習の生かしていく、そんな授業の工夫も取り入れています。

また今年度から道徳の校内研究にも取り組んでおりまして、いろいろな道徳的価値観を以って子どもたちの心を耕していきましょうと。それが「自分をつくる」意味でも有効ではないかと考えています。

GIGA端末を活用した授業も進められている
GIGA端末を活用した授業も進められている

また「ともに学ぶ」というところは人権やSDGsなどをテーマに外部から講師を招いて学習をしたり、違いを認めるってどういうことなのかそれぞれの先生たちが意識して授業設計に取り組んでいるところです。

もう一点、「わたしたちの小杉」というのはいわゆる所属意識のことです。開校当初2つの学校から転入してきた子どもたちにとっては特に意識しづらい部分だったかと思いますが、開校4年目を迎えて自分たちの学校という意識が少しずつ芽生えてきているのかなと感じます。

子どもたちのアイデアにより誕生した校歌や校章

――新設された学校ならではの取り組みといったものはございますでしょうか?

吾妻校長そうですね、多くの学校は長年の歴史の中で培われてきた文化や伝統を受け継ぎながら学校運営や教育活動が行われているのがほとんどですが、本校においては子どもたちも私たち教職員も何もないところからスタートしていますので、学校をつくっているという感覚や楽しさは他の学校よりあるかも知れませんね。

例えば本校の校章ですが、子どもたちの考えたデザインをもとに決められたそうです。人と人がつながる温かな環境という学校のコンセプトをもとに、中原区の区の花パンジーがモチーフとして描かれています。パンジーにも多彩な色がありますが、それを人に見立てて、人の個性もいろいろあって多様な人が集いつながりあうイメージを表現しているそうです。またどんな色にもなれるというメッセージも込められているそうです。

子どもたちの考えをもとにデザインされた校章
子どもたちの考えをもとにデザインされた校章

もう一点、校歌も子どもたちによる作詞です。令和元年の6年生が歌詞を考えて、プロの方に作曲していただいたものが本校の校歌として歌われています。

 他にも学校生活を送る上でのルールや遊び方、地域との関わり合いなども含めてひとつひとつ自分たちが学校をつくっているという実感が自己肯定感や自信にもつながって「豊かに生きる」ことにつながっていくと思っています。

子どもたちが作詞した校歌
子どもたちが作詞した校歌

PTAの役員を中心に行われているボランティア活動

――保護者や地域との連携、取り組みの実際についてお聞かせください。

吾妻校長いろいろとお話ししたいことはあるのですが、コロナ禍になってから地域との取り組みはほとんどストップしてしまっているのが現状です。保護者も学校に来られる機会がほとんど無く、9月に授業参観を行いましたが密になるのを避けるため1クラスを半分に分けて交代で参観いただくというかたちをとらせていただきました。

保護者会のような全員が揃う機会もありませんし、保護者にとっては学校との接点がなかなか持ちづらい状況が続いていると思います。

そこでひとつご紹介したいのが、PTAの役員を中心に行われているボランティア活動です。具体的には「外国語ボランティア」「花ボランティア」「図書ボランティア」がありまして、興味のある方ややってみたいという方にご尽力いただいています。

「外国語ボランティア」というのは外国や異なる文化に関する掲示や紹介、英語での読み聞かせなどを主な取り組みとしていただいています。今はコロナ禍のため読み聞かせは行っていませんが、昇降口のところに平和を願う展示をしてくださっています。

「外国語ボランティア」の方々による平和を願う展示
「外国語ボランティア」の方々による平和を願う展示

また「花ボランティア」は校庭にある花壇の整備をしてくださっていて、これから秋を迎えるとパンジーをたくさん植えてくださいます。卒業式の時もその花壇が花道となって子どもたちを見送ってくれるとても有り難い活動です。

そして「図書ボランティア」は、図書室の環境整備や本の消毒、読み聞かせなどをしてくださっています。先日もコロナ禍に対応するかたちで対面では無く放送室からGoogle Meetを使って読み聞かせをしてくださいました。子どもたちに本の世界を広げてくださる貴重な活動です。

総合的な学習の時間を通して地域を知り、地域のために何ができるのかを考える

――地域のことについて学ぶ総合的な学習の時間にも力を入れて取り組んでいるそうですね

吾妻校長本校では総合的な学習の時間を使って地域のことについて学ぶ取り組みを進めています。低学年ではまち探検で地域のことを知ったり、地域の良さを見つけたりするところからはじまり、高学年になると地域にとって自分たちは何ができるのかというところまで系統立てて学んでいきます。

具体的には、3年生になると校外に出て地域のお店を訪ねたり、お店の人にお話を伺ったりして小杉のまちの魅力を見つけます。また4、5年生になると地域の福祉や防災、環境といったことについても学習し、6年生になったときにそれまで学んだことや人とのつながりをもとに自分たちは地域のために何ができるのかというところまで掘り下げて考えます。

学年ごとに系統立てた、さまざまな学びが展開されている
学年ごとに系統立てた、さまざまな学びが展開されている

これらの学習活動を通して実際に6年生が取り組んだことのひとつに「あいさつ運動」があります。会釈であいさつをするのが日常となっているために、「おはようございます」と声に出してあいさつすることがなかなかできない子もいました。

そこで子どもたちと一緒に、いつも自分たちのことを見守って声をかけてくださる地域の人たちに「おはようございます」と言われたら「おはようございます」と言い返せる自分、友だちなどにもきちんとあいさつの言える小杉小でありたいという思いが子どもたちから湧き上がり、「あいさつ運動」に取り組むことになりました。最近は少しずつ、あいさつができるようになってきていると思います。また、毎朝通学路のゴミを拾ってくる子もいまして、地域への愛着が育まれてきているんじゃないかと思います。

地域の方々が放課後に来て学習のお手伝いをしてくれる「寺子屋」

――今後、注目すべき新しい取り組みなどはございますか?

吾妻校長今年の8月末から新しくスタートした取り組みで、「地域の寺子屋事業」というのがあります。週一回、平日の放課後に約1時間、地域の方々が学校に来てくださって、子どもたちの学習のお手伝いをしてくれます。

川崎市の事業として取り組んでいるもので、現在は2年生を対象にしています。勉強を教えてもらったり、遊んでもらったり、地域のお話をしていただくこともあります。地域の方にとっては学校とのつながりを感じていただく良い機会になり、子どもたちにとっても地域の方と触れ合う貴重な機会になっていると思います。

もうひとつ、今年の10月から試験的に校庭開放を行うことにしました。毎日ではないのですが、学校の体育倉庫にある道具を使ってめいっぱい身体を動かして遊んでみようといった取り組みです。ちょうど季節も良いので、遊びを通して子どもたちの交流が広がると良いなと思っています。

校庭を開放し、子ども達の交流を促進する試みが行われている
校庭を開放し、子ども達の交流を促進する試みが行われている

子どもたちを温かい目で見守ってくださる地域に感謝

――小杉エリアならではの学びや、周辺地域の環境の魅力についてお聞かせください。

吾妻校長学校の周りには古くから住んでいる方も多く、地域の子どもたちを温かい目で見守ってくださっているのを感じます。子どもたちが校庭で遊んでいる姿や登下校時の様子など、地域の方々に見守っていただいていることに感謝いたします。

学習環境としては、区役所や公共の施設が近くにありますし、等々力緑地も徒歩圏にあるので様々な学習機会に恵まれていると思います。

四季折々の表情をみせる「等々力緑地」の様子
四季折々の表情をみせる「等々力緑地」の様子

また駅周辺は商業施設も多く、子どもたちのまわりには常に多くの情報があふれているのを感じます。そこで大事なのはどんな情報を得るかといった取捨選択能力で、自分にとって必要な情報をいかに引き出すかといった能力が求められる環境だと思います。

小杉小の子どもたちを見ていて感じるのは、いろいろな地域、いろいろな環境で生まれ育った子どもたちが集まっているので、学校目標にもあるような「違いを認め 力を合わせる」といったことが自然とできるようになっているのかなと。幼稚園の頃からずっと一緒という子どもも少ないですし、いろんな文化やいろんな考え方の子どもたちが集まって生活するためには、思いやりとか違いを認めるといったことが必要になるんですね。

子どもたちなりにその違いを認めたうえで、許せるところときちんと主張するところをしっかり使い分けているようにも感じます。もちろん葛藤はあると思いますけど、それを認めて一緒に生活していくという力が培われていると思います。

さまざまな思いを持った子どもたちが、それぞれを認め合いながら過ごしていく
さまざまな思いを持った子どもたちが、それぞれを認め合いながら過ごしていく

特に今の5年生と6年生は西丸子小と今井小からそれぞれ転入してきた子どもたちなので、卒業するまでの間にどれだけ絆を深められるか、おたがいに頑張っているんじゃないかと思います。

最初にお話しした「豊かに生きる」というのは小学校時代だけに限った話しでは無く、中学校やその先もずっと、ここで培ったいろいろな価値観やつまずきも全部ひっくるめて自分が大人になっていくためのひとつの糧にして欲しいなと思っています。

人との関わりにおいては、難しい場面にぶつかることが付き合っていくうちに必ずあると思いますが、それをひとつひとつクリアしながら、よりたくさんの人と関われるようになるには、さまざまな学習活動によって人の話を聞いたり、感じたりすることで培われるものではないかと思います。

今後、コロナの状況を見ながら少しずつ教育活動を再開していく予定です。本校としては保護者の方や地域の方にもっと学校に関わってもらいたいと考えています。子どもたちも保護者や地域の方と触れ合う中で地域の有り難さとか感謝の気持ちとか、そういうものを全部感じとって「豊かに生きる」とはどういうことなのか、この学校の文化として根付いていって欲しいなと思っています。

川崎市立小杉小学校
川崎市立小杉小学校

川崎市立小杉小学校

校長 吾妻 典子先生
所在地:神奈川県川崎市中原区小杉町2丁目295-1
URL:https://kawasaki-edu.jp/2/219kosugi/index.cfm/1,html
※この情報は2022(令和4)年11月時点のものです。

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