子どもも大人も自己有用感を持ち、 自己開示して認め合える学校を目指す、「横浜市立初音が丘小学校」

「初音が丘小学校」では、「大きく掲げた教育目標をいかに日々の教育活動に落とし込み、普段遣いができるか」に注力し、子どもたちの生き生きした表情を引き出す学びを実践している。また子どもたちのSOSを見落とさないよう、先生方は日々鋭い観察の眼を養っているという。「学校は人間づくりの場」と力を込める鈴木正憲校長に、日々の教育のこと、先生方の取り組み方について、詳しく話を伺った。

初音が丘小学校
初音が丘小学校

――初音が丘小学校の沿革や概要について教えてください。

鈴木校長先生:本校は1961(昭和36)年に「岩崎小学校」の分校として設置され、その2年後に「初音が丘小学校」として全児童567名で独立しました。初音が丘の名前は、その昔この一帯にうぐいすの初音が聞かれたことに由来しています。誰ともなくこの丘を「初音が丘」と呼ぶようになり、うぐいすの新鮮で若々しい初音になぞらえ、想像と盛運の願いをこめて「初音が丘小学校」と命名されたと聞いています。 現在、全校児童636名、1年生100名、2年生94名、3年生103名、4年生114名、5年生118名、6年生107名の子どもたちが在籍しています。 「ふれあいいっぱい、夢いっぱい、笑顔でチャレンジ初音っ子」という教育目標を掲げて、日々の教育活動を行なっています。

小学校は50年以上の歴史を持つ
小学校は50年以上の歴史を持つ

――初音が丘小学校の日々の教育で、先生が心がけていらっしゃることを教えてください。

鈴木校長先生:大きな教育目標を掲げていますが、それをいかに日常に落とし込み、普段遣いでできるかが大事だと考えています。 学校は人間づくりをする場であり、子どもを社会に適用する人材に育てる場でもあります。子どもの中にいかに自己有用感・自己肯定感を育てるかが大切。私はいつも先生方に、「人間、自信があれば、なんとか生きて行かれる」と伝えています。 では子どもの中に自信を育てるにはどうすればいいのか。私を含めた先生たちが鋭い観察眼を持ち、子どものちょっとした変化に気づいて伝えてあげること。そして大人が子どもの話をよく聞くことです。 例えば、学校に来て帽子を取らない子がいるとします。いつもそんなことをしない子であれば、答えは「何やってるんだ、ルールなんだから帽子は脱ぎなさい」ではないですよね。まぁそう言って叱るのは、簡単なんですけど。 「何かあったかな」「髪型を失敗したのかな」と先生は思わなければいけない。そして話を聞くなり、クラスのみんなに意見を聞くなり、その対応を一緒に考えればいいんです。

体育館の様子
体育館の様子

子どものサインを見逃さない、先生の観察眼が鍵

――先生の観察眼の鋭さが勝負ですね。

鈴木校長先生:子どもにとって「怖い先生」というのは、大きな声を出して萎縮させたり、怖がらせる先生ではありません。自分のことをよく見ていて、鋭い先生が一番怖い。ごまかせませんからね。 いつも掃除を頑張る子がサボっていたら、何かサインを出している可能性が高いですよね。それを拾うのが先生の仕事。そのためには常日頃の子どもの様子を観察し、心を砕いていないといけない。でも普段の様子をしっかり見ていたら、変化に気づくのはそんなに難しいことではないんです。 お互いどこまで自己開示できるかも重要です。「嘘を言うな」「正直に話せ」と言うだけで子どもが心を開いたら、こんな楽な仕事はありません。「話しても受け止めてもらえる」「話したら楽になった」と子どもが感じれば、言わなくても全てを話してくれます。正直な自己開示をしてもらうには、日々の信頼関係の構築しかない。「子どもが正直に話をしてくれるのは簡単じゃない」と先生が理解しないといけません。 学校が、お互いを許し合い受け止め合える場になれば、本当にいいですよね。自己開示もどんどん進み、人を許し、許してもらえる場所。それが理想の学校です。

大きなジャングルジムがある
大きなジャングルジムがある

――先生というのはやはり大変なお仕事ですね…。

鈴木校長先生:先生になりたいと思って、大学で資格を取って試験もパスして、実際に毎日子どもに対峙している先生方ですから、素養はもう十分です。 確かに重労働ですから「大変だ・忙しい」というだけで、喜びがなければ閉塞感だけになります。自信を持って子どもの育ちを見守れるような仕掛けは必要で、その仕掛け作りが私の仕事だと思っています。「大変だけど、やってよかったね」という取り組みを増やし、先生たちもブラッシュアップできたと実感できることが理想です。先生がやる気に溢れていると、それに応えるように子どもたちも元気になりますからね。 大切な部分にきちんと力が入れられるよう、力配分も考えます。例えば毎年6月に出す各クラスの学級経営案をやめて、その代わり毎週、週案を提出してもらい、私からのメッセージも書いて返すようにしました。年間の経営案よりも細かなアイデアが分かるし、交換日記のようになってコミュニケーションがよく取れるようになりました。 先生方が日々何気なくやっていることが、実はとても重要な意味を持っていることもあります。本人も気づいていないことが多いので、「あなたのやっていることはこんなに重要なんだ」と意味づけして、私から伝えるようにしています。考え方・見方ひとつで先生の行動が意味のあることにつながり、先生自身の気づきになればやる気アップにもなります。

運動場の様子
運動場の様子

――先生のモチベーションは教育の質にも直結しますよね。

鈴木校長先生:先生は誰しも一生懸命ですよ。それを意味づけして、あえて手柄として分かってもらうことで、今度は先生が同じことを子どもにもしてあげられます。先生を認めてあげられれば、その先生は子どものことも認めてあげられる。人間は私も含め誰しも同じです。先生方が作る学級通信に掲載されている中にいい写真があると、大きくしてラミネートをかけて廊下に掲示するようにしました。いい授業をしていると、子どもたちはそれはそれはいい表情をする。真剣で、前向きで、ぐっと集中している顔。他の先生がそれを見た時に「自分の授業では決して見せない表情だな」と思えば、自分の授業のやり方を考えて見直すでしょ。子どもは正直だから、面白い授業をすれば、ぐっと食いついて見たこともない表情を見せます。私から「いい授業をしなさい」と言うよりも、何倍も効果がありますよ。

先生も子供も刺激を受けながら授業が進む
先生も子供も刺激を受けながら授業が進む

子どもの居場所・隠れ場をたくさん作った校内の環境

――学校内の廊下や階段下にベンチがあったり、余裕のある造りが印象的です。

鈴木校長先生:学校のいたるところに、子どもたちの逃げ場や居場所を作るという意味もあります。保健室はもちろん、「うぐいすルーム」という自由に過ごせる部屋もあり、その前にはベンチを設けてあって、子どもがいられる場所、溜まれる場所、隠れる場所をあえて作っています。そういう場があれば、先生方や私が通る時に様子も見られますし、声をかけることもできますからね。

色んなきっかけを逃さないためにも、校内にはベンチなどたくさんの仕掛けがある
色んなきっかけを逃さないためにも、校内にはベンチなどたくさんの仕掛けがある

「校長室に行きたい」という子もいますから、校長室で過ごさせることもあります。別に何を話すでもなく、落ち着くまでいて「もう行くわ」とフラリと教室に帰って行ったりする。大人と同じ空間にいるだけで落ち着ける場合もあるんです。

例えば「忘れ物コーナー」を職員室の前に作っていますが、本来お客様が多く通るこの場所に、雑然とした忘れ物コーナーはふさわしくありません。でも居場所のない子ども、先生に何か話したい子どもは、忘れ物を探すふりをして大人の近くに来ます。手持ち無沙汰な風にここに来て、忘れ物をいじっている子どもがいたら、それはSOSのサインであることが多いですね。 図書室のおもちゃがいたずらされていたり、掲示物が破れていたり、そういうことも子どものサインであることが多いです。いろいろな場所に子どものSOSをキャッチできる仕掛けがありますから、私たちはそれを見逃さないようにアンテナを張っています。

図書室の掲示
図書室の掲示

――先生が感じていらっしゃる初音が丘小学校の魅力はどんな部分でしょうか?

鈴木校長先生:僕が2018(平成30)年の4月に着任した時、最初の朝会では子どもたちが静かに入場して時間まで待って、黙って私の話も聞いて…模範的な子どもたちの姿でした。この学校はそもそもチャイムが鳴らないので、自分の判断で動くことができる子どもたちです。そこで私は「この子どもたちなら、次の世界を目指せる」と思い、もっと自然な子どもたちの行動に任せることにしました。 今では朝礼で入ってくる時も待っている時も、子どもたちは隣近所と自由に話しています。でも「さぁ朝礼が始まるぞ」という雰囲気を察知すると、何も言われずにシンと静かになって、話す相手にグッと集中して話を聞きます。 これまでルールだから静かにしていただけだった子どもたちが、「今は話を聞く時だ」「避難訓練だから集中しよう」と考えて、誰に言われるでもなく自ら静かにする子どもたちに変化しました。これこそが中学生になった時、社会に出た時に必要な力です。それを短時間に身につけた初音が丘の子どもたちは、本当にすばらしいと思いました。 ですから朝礼では私の話もよく聞いてくれて、話す方がかなりプレッシャーになっています。短い時間でも、濃く聞かせる内容じゃないと、「先生、忙しかったんだよね」という憐憫に似た視線を感じますからね…(笑)。

朝礼にも身が引き締まるそう
朝礼にも身が引き締まるそう

――廊下を行き交う時に、校長先生への挨拶が子どもそれぞれで面白いですね。

鈴木校長先生:子どもは一人一人違いますから、挨拶も違うのが自然です。人に強制されるものではないので、したくなければしなくていい。「チース!」でも「おっす」でもなんでもいい。とにかく「人に声をかけると気持ちがいいな」「挨拶っていいもんだな」と分かればいいんです。 毎日やっていれば、昨日まで恥ずかしそうに下を向いていた子どもが、ある日私のところにハイタッチをしに来ます。人とどう関係をつくるか、どうコミュニケーションを取るか、どうアピールすればこちらを向いてもらえるのか、挨拶だけでもさまざまな学びがあります。

廊下でも挨拶が行き交う
廊下でも挨拶が行き交う

「分かろうとしないのが恥ずかしい」を合言葉に習熟度別学習も実施

―― 学力向上の取り組みとして、算数では習熟度別少人数学習を行なっているとか。

鈴木校長先生:4〜6年生の算数科では、1学年3クラスのところを習熟度別6クラスに組み替え、少人数制学習を行なっています。「分からないことが恥ずかしいのではない。分かろうとしないことが恥ずかしいことなのだ」を合言葉に、テストの点数で分けるのではなく、子どもたちが自分で自分のクラスを選びます。 「どんな風にクラスを選ぶかな」と思って見ていましたが、みんな「分かるようになりたい」という気持ちが強いのでしょう。きちんと自分に合うクラスを選んでいて、見事でしたよ。 図形ではプレゼン大会をしたり、単元によって発表の手法を変えたり、それぞれの担任が工夫を凝らしています。先生同士も「この資料を使ってみたら」とアドバイスし合ったり、「どうアプローチするのが効果的か」などを相談し合い、切磋琢磨し合ってチームプレーで頑張っています。クラス変更も自由で、先生同士の授業の面白さ・分かりやすさも見えてしまうので、こちらも必死です。 子どもたちは時間になると我先にと自分のクラスに向かって行き、授業時間が終わっても先生に質問している。勉強の面白さが分かってきたのかもしれませんね。

――「はつねの学び」という、学校が目指す子どもの姿を具体的に打ち出されていますね。

鈴木校長先生:とにかく私は、お題目とか大きな目標よりも、日々どう子どもと接するか、毎日チリのように重なる部分が一番大事。それでしか教育はできないと思っています。研究授業・研究発表だからといって、花火を打ち上げても意味がない。いかに普段の授業や児童指導に活かせるかなんです。 ですから学校全体のテーマを「初音が丘の学び」の頭文字を取って、「は:発信する」「つ:追求する」「ね:粘り強く」「が:つながる」「お:思いや願いを実現しようとする」「か:課題解決的な学習」と、大きく設定しました。 「初音が丘」の語呂合わせになっているので、普段から先生方が意識しやすくなり、「これは粘り強さを教えるのにちょうどいい教材だから、時間をかけてやろうかな」「発信する指導を強化できそうだから、安直に答えを教えないでやろう」などと先生が感じやすくなり、自然と指導も深くなります。 日々の教育や指導をしっかり丁寧に行なっていたら、「大きな教育目標が知らぬまに達成できていた」ということが多々あります。先生方は、「子どものために何がベストか」を考えて、当たり前のこととして毎日取り組んでいたら、点と点がつながり、大きな目標がクリアできていた。コツコツやっていたら、理論が後からついてくる。これが一番理想の形です。これが現在の初音が丘小学校の姿でもあります。

――この地域の魅力について教えてください。

鈴木校長先生:この地域の人たちは、子どものことを宝物のように可愛がってくださる、本当に温かい方々ばかりです。夏休みの間、地域まつりや納涼祭、さまざまなイベントなども用意してくださり、子どもたちは楽しい思い出がたくさんできたことでしょう。私もそれらのイベントに行きましたが、地域の方々は「子どもに元気をもらっている」と温かい声をかけてくださいました。住むにも、子育てをするにも、とてもいい地域性だと思います。

初音が丘小学校
初音が丘小学校

横浜市立初音が丘小学校

校長 鈴木正憲 先生
所在地:神奈川県横浜市保土ケ谷区藤塚町1-1
電話番号:045-351-1201/1202
FAX : 045-351-7304
URL:https://www.edu.city.yokohama.lg.jp/school/es/hatsunegaoka/
※この情報は2019(令和元)年9月時点のものです。