街づくり拠点機能を担う多様な教育空間

豊かな自然に守られ、のびのびとした子どもが育つ「横浜市立十日市場小学校」

町田方面に源流を持ち、途中で鶴見川に合流して、東京湾へと流れ下る恩田川。その恩田川の中流域には、今や首都圏では稀少となった水田風景が広がっている。そんな水田と豊かな緑に囲まれた十日市場エリアを学区とするのは「横浜市立十日市場小学校」だ。
この小学校では地域の方々と共に水田を使って全学年が米作りに取り組んでおり、それが大きな特色となっている。また、校舎の構造や学校経営についても個性的、実験的な要素が多く、市内のみならず多方面から見学に来る教育関係者も多いという。今回はこちらで校長を務められている大木 巧先生を訪ね、学校の特徴と地域の魅力についてお話を伺った。

大木校長先生
大木校長先生

 ――まず、学校の沿革と概要について教えてください。

本校は1965(昭和40)年9月1日に、隣にある「横浜市立新治小学校」から分離、独立をする形で開校した小学校で、今年で創立52周年を迎えます。
実は、本校はもともとこの場所にあったのではなく、平成に入って十日市場の街が再開発される時に、小学校と中学校の場所を入れ替えるという大規模な計画のもと、2007(平成19)年にかつて「横浜市立十日市場中学校」があったこの場所にこの新校舎が建てられました。ですから開校から50年以上経っていますが、この校舎はまだ11年目という新しい校舎です。

昔を紐解く資料の数々
昔を紐解く資料の数々

実はこの新校舎は民間企業に設計と運営を委託する「PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」という手法を使って建てられました。こちらは民間企業の技術を使い、建設から管理まで一貫して行ってもらうという方式で、実は横浜市内でも本校が初めての取り組みだったそうです。

 ――現在の児童数など教えてください。

児童数については、平成29年度現在636名で、普通学級が19学級、個別支援級が3学級という内訳です。このほかに通級指導教室がありまして、緑港北青葉地域の小学校から、特別な支援が必要な子どもたちが週に1回程度、通ってきています。学校のキャパシティは、普通教室でオール4クラス程度は確保されていますので、あと200人程度は増えても対応が可能です。

教室同士の壁がなく、広々とした教室
教室同士の壁がなく、広々とした教室

 ――校舎に特徴的な部分があれば教えてください。

建物自体が非常にオープンな校舎で、木材をふんだんに使っていますし、廊下はじゅうたん敷きで、教室には壁がないなど当時としては非常に先進的なデザインになっていますので、来られた方は皆さんは感心されていますね。職員室や校長室もガラス張りで、職員室ではなく「校務センター」と呼んでいるのも珍しいと思います。

体育館
体育館

また、体育館は非常に広く造られていますので、本校は朝会もすべて体育館でやっています。雨が降っても体育館に全員が集まれますから、非常に使いやすいですね。でも、一番の魅力はやっぱり学校の周りの環境です。すぐ隣にある「新治市民の森」は住民の方によってしっかり管理もされていますし、蛍が見られるようなきれいな川も流れているので、本当に自然が豊かな森だと思います。

 ――今年で16年目となる「すくすく田んぼ作り」について教えてください。

すくすく田んぼ作りの様子
すくすく田んぼ作りの様子

「十日市場」駅の向こう側に地域の方からお借りしている田んぼがありまして、そちらを使った「すくすく田んぼ作り」学習が本校の大きな特徴となっています。
基本的には他校と同じく、5年生が中心になっている活動ですが、5年前に5年生だけの負担にならないようにということで、全職員で話し合いをし、「全校で関わるような形に変えよう」となったそうです。それ以来、それぞれ役割分担し、2017(平成29)年は1年生が5年生のお手伝い、2年生が苗づくり、4年生が代かき、6年生が夏の草取り、3年生が脱穀ともみすり、という具合に各学年で分担して作業をしました。5年生は水路の清掃、田植え、稲刈り、もちつきなど、主なところをやっています。

大木校長先生
大木校長先生

 ――保護者の皆様との関わりや、PTAの活動について教えてください。

保護者の方はみなさん学校に協力的な方ばかりです。PTA組織も非常にしっかりとしていますね。役員の皆さんはもちろんのこと、校外委員の皆様が朝の集団登校のお世話や、下校中の通学路の⾒守りを⽇々してくださっていますし、広報委員の方は、すごく素敵な広報誌を作ってくださっています。また、保健成人委員会の方はアルミ缶回収やベルマーク整理等をしてくださっています。皆さんお忙しい中とても協力してくださっていて本当に有り難い限りです。

また、PTAとは別に「学校ボランティア」に登録されている方々もいらっしゃいます。こちらはたとえば、スポーツテストの時に、グループごとに一人ついて回ってくださったり、交通安全教室では、要所要所に立って手伝ってくださったり、水泳指導のお手伝いなどもしていただいています。
また、「おはなしや しらさぎ」という読み聞かせの会の皆さんにも毎週水曜日に各クラスに入って、読み聞かせをしていただいていますし、卒業の前には6年生に対して、「卒業の読み聞かせ」ということで、舞台の演出装置なども作って、素敵な読み聞かせをしていただいています。

天井が高く、広々とした図書室とパソコンルーム
天井が高く、広々とした図書室とパソコンルーム

 ――保護者以外の、地域の方との連携や協力についてはいかがでしょうか?

田んぼの活動などはまさに地域の方の協力なしでは成り立たないものですし、地域の方と先生方が一緒になって、夜間の地域パトロールということもしています。夏には夜の9時や10時すぎまで、街を歩いて見回りをしてくださっているんですね。これももともとは地域の方々が主体になって、学校をみんなで見守ろうじゃないかということで始めてくださったものだそうです。

ほかにも、消防署の方に消防車を見せていただいたり、地域の消防団の方に来ていただいたり、地域探検でいろいろな店の方にご協力をいただいたり、いろいろな校外活動や体験活動を通して、日々ご協力をいただいています。

すくすく田んぼ作りの様子
すくすく田んぼ作りの様子

 ――学習や生活指導の面で、特に力を入れている点があれば教えてください。

まず、先ほどご紹介した「すくすく田んぼ活動」などを通して、横断的で総合的な学習をするということは非常に大事にしている部分です。
また、本校では学校の目標に「ゆめ、希望、共生、笑顔いっぱい十日市場小」というキャッチフレーズを掲げていますが、「笑顔いっぱい」ということは、まずは何と言っても「授業が楽しい」ということだと思いますので、「授業づくり」は特に大切にしています。校内でいろいろな研修をしたり、他校に研究に出かけたりもしながら、授業という学校として一番当たり前のことをきちんとやっていこうというのがまず第一だと考えています。

学校教育目標
学校教育目標

児童指導についても、いろんな子どもがいる中で、みんなが「学校が楽しい」と言えるために、悩み事もよく聞くように心がけていますし、いじめにつながりそうな事案があれば、担任だけで抱えるのではなく、児童支援専任を中心に組織的に対応して、その日のうちに解決することをモットーにしています。

特別な配慮が必要な子どもたちについても、その子がいま何を考えていて、どのようにしたら学習に安心して取り組み、友達と楽しく関われるかということを、子どもの立場に寄り添って考えるよう、先生方にもお願いをしています。先生方はみんな、非常に丁寧に、辛抱強く、子どものところまで降りていって、心を解きほぐしながら対応してくれていますね。

木材のぬくもりを感じる廊下
木材のぬくもりを感じる廊下

 ――ホームページに掲載されている「十日市場小独自献立」とはどのようなものでしょうか。

本校は田んぼ活動のご縁もあって、地域の農家の方とのつながりが非常に深いですから、地域で作られたお米や野菜を使って、年間のうちの4分の1くらいの割合で、給食に取り入れていただいています。

たとえば、佐藤農園さんのトマトなどはとても美味しいので、その収穫時期には特別に献立を変えてみたり、以前農家さんが皮がついたままのとうもろこしを届けてくださった時は、子どもたちが皮をむいて給食室に渡して給食でいただいたということもありました。こうしたことも子どもたちにとっては非常に新鮮な体験なのではないでしょうか。

また、本校は「残食が非常に少ない」というのも特徴も一つなんです。やはり自分たちで作った野菜や顔を知っている農家の方が一生懸命に作ってくださったお米や野菜を使いますから、残さず食べようと思うのだと思います。こうした取り組みができるのも、十日市場ならではだと思います。

校章
校章

 ――幼稚園、保育園との交流もさかんだそうですね。

近隣には、いくつかの幼稚園や保育園がありますから、そこの園児たちを学校に呼んで案内したりもしています。去年は6年生が「総合的な学習の時間」を使って、幼稚園と交流をしました。この時には6年生が実際に「新治市民の森」に行き、竹を伐ってきて、竹の“ぽっくり”を作り、幼稚園の子にプレゼントするということもしていました。

 ――小中連携についてはいかがでしょうか?

年に何回か、小中交流日という日を設けていますので、その時に小学生が中学校に行って部活の体験をしたり、といった交流はしています。逆に、中学生が職業体験をやる時には、教員になりたいという希望のある生徒さんを中心に毎年何人か受け入れて、1日教員たちの仕事の手伝いをしてもらう、といったことも行っています。

先生方については、小中交流日とは別に、小中の授業研究会の日を年間に2日ほど設けて、近隣の小学校、中学校の先生たちがお互いに授業を見合うということをしています。1回は中学校の先生が本校に来て、もう1回は本校の教員が中学校に行って、という形で授業を見合って理解を深めています。

大木 巧校長先生
大木 巧校長先生

 ――十日市場小学校での生活を通して、どんな子どもたちに育っていってほしいとお考えですか?

「主体的な学び」ということを目指した実践をたくさんやっていますので、それらを通して自己肯定感を高め、失敗を恐れず、チャレンジしていく子に育ってほしいですね。さまざまな体験を通して「将来はこんなことをやってみたい」と、夢を膨らませていってほしいと思っています。

教室
教室

 ――最後に、十日市場エリアの街の魅力と、おすすめスポットについて教えてください。

自然が豊かなのはもちろん、公共施設が充実していてさらに少し足を伸ばせば、さまざまなところに出かけやすいロケーションであることが魅力の1つなのではないでしょうか。こういった環境で子どもたちが学び、育っていけるということは非常に素晴らしいことだと思いますね。
また、地域の方の子どもたちに対する目線も温かな地域で、地域の運動会や夏祭りなども沢山ありますから、本校の子どもたちもそういったところに参加して、ソーランを披露したりしながら、楽しんでいます。
おすすめのスポットということでは、やはり「新治市民の森」が一番ですね。この森は本当によく自然が残されていて、きれいに維持管理がされていますし、竹細工や木工を体験できるような小屋もありますから、子どもたちにも楽しんでもらえると思います。

大木 巧校長先生
大木 巧校長先生

横浜市立十日市場小学校

校長 大木 巧先生
所在地:神奈川県横浜市緑区十日市場町1392-1
電話番号:045-981-0420
URL:http://www.edu.city.yokohama.lg.jp/school/es/tookaichiba/
※この情報は2017(平成29)年11月時点のものです。