横浜市立杉田小学校 校長先生 インタビュー

地域の人たちに支えられ・教えられ、伸びやかに育つ「横浜市立杉田小学校」

梅の街としても知られる杉田。その街の中心に位置にある「横浜市立杉田小学校」は、今年で開校145年目を迎える歴史ある学校だ。児童は杉田を盛り上げるキャラクター「ウメニー」を考案し、企業とのコラボレーションをしながら自ら広報活動も行なっている。20年前から地域の方々を講師にしたカルチャークラスも設け、地域との連携の強さも大きな特徴だ。そんな「横浜市立杉田小学校」の村上校長先生に、学校での取り組みや地域の魅力をお聞きした。

キャラクターを通じて地域、社会と関わる児童たち

横浜市立杉田小学校
横浜市立杉田小学校

――学校の概要について教えてください。

村上先生:本校は1873(明治6)年に「森田学舎」として開校し、今年度で創立145年目を迎える歴史ある学校です。一学年3~4クラスと個別級19名、合計647名の児童が通学しています。

教育目標に「学校大好き・この街大好き杉田っこ」とあるように、「この街」つまり地域を愛する気持ちが強く、地域とのつながりが深い学校です。5世代続いて本校に通っているというご家庭もあり、地域の温かなご協力を得ながら日々の教育活動を行っています。

――ウメニーという「横浜市立杉田小学校」から生まれたキャラクターがあるそうですね。

村上先生:「杉田の時間」という総合的学習の時間を利用して、2013(平成25)年度の5年生の児童が、「ウメニー」という杉田のゆるキャラを作りました。熊本の「くまモン」のようにみんなに愛されるキャラクターをつくり、「いつもお世話になっている杉田の方々に恩返ししたい」という児童の思いから生まれたそうです。ウメニーの生年月日や性格、特徴、好物など驚くほど細かな部分まで設定があるのですが、これらはすべて児童が一生懸命考えたものだそうです。

ウメニーを活用した取り組み
ウメニーを活用した取り組み

このようにして生まれた初代ウメニーをもとに、地元企業の協力を得て2014(平成26)年度には2代目ウメニーが生まれました。その翌年の2015(平成27)年度には6年生が「ウメニー拡散プロジェクト」を立ち上げ、地域に広める活動を行いました。現在、隣の「杉田劇場」には、キリンビバレッジさんのご協力を得て、児童が考えたウメニーの図案のラッピング自動販売機が設置されています。この販売機は今後も台数を増やしていく予定だそうで、私たちも楽しみにしているんです。

また児童の発案で学校周辺を「ウメニー・クリーン通り」に設定し、児童と地域の方々で清掃活動を行っています。おかげ様で以前はちらほら落ちていたゴミも、いつしか誰も捨てなくなり、本当にきれいになりました。このように自分たちから発信したキャラクターをもとに地元企業の方とコラボレーションをしたり、クリーン活動をしたりと、児童の考え方や活動が積極的で活発になりました。ウメニーは本校にとっても地域にとっても、本当に思い入れのある大切なキャラクターです。

――この地域で有名な「杉田梅」がウメニーのモデルなのでしょうか?

村上先生:ウメニーは「杉田梅」に着想を得て生まれた梅の妖精です。もともとこの杉田の周辺地域は16世紀の後半、小田原城主であった北条氏の家臣・間宮信繁の領地でした。その間宮氏が村民の副業として梅の実の栽培をするため、この一帯に梅を植えたそうです。

当時は「船が観音崎沖まで帰ってくると、杉田の梅の匂いがする」と言われるほど、杉田梅林は広大で有名な観光名所でもありました。現在では宅地開発によって広い梅林は姿を消しましたが、原木が「妙法寺」に残っており、多くの梅に関する団体が杉田地区の梅を大切に保存して、広げる活動をしています。本校にも、正式にナンバリングされた「杉田梅」の木が植えられています。

地域の先生が自動に直接教える「本物」の魅力

「わくわく杉田ワールド」を伝える学校通信
「わくわく杉田ワールド」を伝える学校通信

――地域の方々とのつながりが深いとお聞きしました。

村上先生:本校は地域の方々の力なくしては成り立たない、と言っても過言ではない学校ですので様々なつながりがあります。

地域の方に最も関わっていただいているのは、「わくわく杉田ワールド」のカルチャー活動です。これは書道や花道、そば打ちや、手話、コーラス、バスケット、城と歴史、など19種類もの教室を開講し、その先生を地域の方々が務めてくださっているものです。実は本校では20年前からこの活動をしており、毎回70~80名ほどの方々が学校に来てくださっていて、延べ400名ほどの方々にお世話になってきました。なかにはその世界の重鎮と言われる先生や高名な方もいらして、1年生から6年間、全校生徒が参加できるこのカルチャー活動は、週1回の活動を通じて“本物”に触れる機会になっています。

学年の活動などに使われる「多目的ルーム」
学年の活動などに使われる「多目的ルーム」

また、年に一度「わくわくの日」という学習発表会と文化祭を兼ねた行事を設けて、カルチャー活動で学んだことを発表会で披露しています。ここには地域の方々をはじめ、保護者や本校卒業生をお招きして、児童の学習の成果を見ていただきます。パワーコーラスや日本舞踊の発表会、お茶室でのお点前など、児童は少し緊張しながらも、日頃学んでいることを皆さんに見ていただくよい機会になっているようです。

ここで体験したことを中学に進学してから本格的に習いはじめる子もいますし、教職員が先生に触れ合うことで刺激を受け、一大決心ののち先生を辞めてその道に進んだ人もいて、子どものみならず大人たちへもよい影響を与えています。

ほかにも「街探検」などで児童が地域のお店や施設にお邪魔することも多く、その都度温かい対応で迎えてくださいます。地域の方々が学校の教育活動に協力してくださったり、毎週先生として学校に来てくださることで、地域と児童・教職員・保護者の方々の距離が非常に近く、近しい関係を保っていると思います。

――教育目標の「この街大好き」というフレーズも印象的ですね。

村上先生:「学校大好き」という文はよく見ますが、「この街大好き」という一文が入っているのは珍しいかと思います。私も赴任して初めて見たときは、「街との関わりが深い学校なのだろうな」と印象的だったのを覚えています。街への愛情や地域への思いが込められていて、この教育目標が本校にはぴったりだと感じています。

休み時間には子どもたちで賑わう小上がり
休み時間には子どもたちで賑わう小上がり

非常に学校愛も強くて、出張や研修会などで私が本校の校長だと知ると、卒業生なんです、と教えてくださる方もいらっしゃいます。「あの駄菓子屋さんはまだある?」「あの方元気ですか?」など、地域の話題でとても盛り上がります。見学授業の際も、卒業生の国会議員の方が国会議事堂の中を案内してくださり、特別に議員食堂で食事ができるように取り計らってくださって、OB・OGの熱い思いが伝わってきます。そのときの質疑応答も国会のことよりも杉田の地域の話の方が盛り上がってしまい…、とても地域愛が溢れていました。

実は本校には校歌とはまた別に「誇らしい母校」という歌があり、現在はチャイムとして使用されています。この歌が示しているように、自分が在学した学校を誇りに思えるのは本当に素晴らしいことです。在校生にも、卒業生の皆さんと同じように杉田小を卒業したことに誇りを持って歩んで行ってほしいと思います。

保護者と地域で守る「子どもが子どもらしくいられる場所」

子どもが子どもらしくいられる場所
子どもが子どもらしくいられる場所

――音楽朝会についても教えてください。

村上先生:毎月1回音楽朝会が開かれ、「今月の歌」を全校生徒で歌います。その歌を録音し、毎週月曜日の朝8時から30分間に渡って杉田商店街で流していただいています。もともと本校では合唱に力を入れており、児童の迫力ある美しい歌声は地域でも評判だったそうです。そこで商店街を歩く方々に児童の歌声で元気になっていただこうと、地元商店街で流すことになりました。

今では磯子区内の小学校で児童の元気な歌声を録音し、「磯子区役所」のエレベーターの中で持ち回りで流しているそうです。本校の取り組みが、このように広がっていくのは本当に嬉しいです。

――特別クラブの活動も盛んなのでしょうか。

サッカーやバスケットボールに加え、合唱「杉田ハーモニーズ」や金管「MDS金管バンド」があります。基本的には週3回、7時30分~8時10分までの朝練習での活動です。実は指導教員の関係で合唱は2017(平成29)年度からなくなる予定だったのですが、児童の強い要望があり、児童同士の自主指導という形で残っている活動です。

「Music Dream Star金管バンド」は4年生から参加できるクラブで、現在60名ほどの部員がいます。こちらは土曜日にお弁当持ちで練習もしており、地域のお祭りや区役所祭のパレード、市のマーチングコンサートなど発表の場が多い活動です。家庭の負担を考えて衣装は学校の方で用意していますので、各自用意するのは靴のみ、負担は衣装のクリーニングだけになっています。

たくさんの本が並ぶ図書室
たくさんの本が並ぶ図書室

――保護者の方々や児童の様子について教えてください。

村上先生:もともとこの辺りで育ったという保護者の方も多く、学校には非常に協力的です。実は初代のPTA会長は校医の先生でいらして、現在はその方のお孫さんが校医をしてくださっているのです。移り変わりの激しい現代にあって、学校のことも数年ではなく10年単位で物事を考えられる、長い視野の落ち着いた環境が整っています。

「地域で子どもを育てよう」という気持ちが伝わって来ますし、保護者が自分の子でなくても悪いことをしている子を叱っている風景などを見るにつけ、温かい義理人情のようなものがいきている街だと、温かい気持ちになります。近隣の方々からも「昔はこうだった」というお話をよく聞きますが、決して突き放すのではなく「こうするといいよ」というアドバイスもいただきますし、困ったときには助けに駆けつけてきてくださいます。

そのせいか児童も非常に子どもらしい、のびのびと人懐っこい性格の子が多いです。恐らく子どもが子どもらしくいられる場所を、地域や保護者がつくってくださっているのでしょう。そんな安心して成長できる場所で暮らしている児童は本当に幸せです。

小学校の敷地は昔は海岸に面していたそうで、「学校の体育の時間にはふんどし一つで泳いだ」という記録も残っているほどです。今の校舎を建て替えた際には、鯨の骨と焼夷弾が見つかったそうです。学校の玄関には、2013(平成25)年に行われた発掘調査で採掘した杉田貝塚の貝層も展示してあります。

杉田貝塚の展示
杉田貝塚の展示

――最後に、この地区の魅力を教えてください。

村上先生:やはり地域の人たちの優しさと、人情に溢れた場所だという点でしょうか。JR根岸線と横浜シーサイドライン「新杉田」駅と、京急線「杉田」駅をつなぐ道に歴史のある「杉田商店街」があり、肉屋や電気屋、八百屋、食堂、駄菓子屋、スーパーマーケットと昔ながらの街並みが広がっています。

朝夕は乗り換えの人たち、昼間は地域の方々でいつも賑わっている商店街は、本校の調べ学習や街探検でもお世話になっています。こういう商店街が、廃れることなく人々の生活を支えているという点でも、この街の底力というか地域への愛情というか、この地域の魅力の一つになっていると思います。

プロフィール
プロフィール

今回話を聞いた人

横浜市立杉田小学校
校長 村上裕子先生
所在地:神奈川県横浜市磯子区杉田1-8-1
電話番号:045-771-0649
URL:http://www.edu.city.yokohama.lg.jp/school/es/sugita/
※この情報は2018(平成30)年3月時点のものです。