稀有な街・森の里だからできること

統一感のある街並みと、閑静な住環境が魅力の森の里。その森の里を拠点に活動している「一般社団法人 厚木ぐるっと」が、今回の訪問先だ。乗合バスの運行を主な活動内容とする同団体、その財源確保のため草刈り、剪定作業も行っている。特筆すべきは、自家用登録の白ナンバーで乗合バス事業を展開していることだ。地域社会に貢献したいという気持ち、そして街への愛着からメンバーがボランティアで運転手を務め、森の里在住者に利便性を贈り届けている。2017(平成29)年からスタートした「深夜便」のリーダーである武井主税さんに、お話を伺った。

「厚木ぐるっと」とは

森の里を巡回する乗合バスの「厚木ぐるっと」
森の里を巡回する乗合バスの「厚木ぐるっと」

――さっそくですが、まずは「厚木ぐるっと」の活動について聞かせてください。

武井さん:主な活動は、森の里を巡回する乗合バスの運行です。「スーパー三和」を起点に、町内のルートを走ります。運転手を務めるのは「厚木ぐるっと」のメンバーで、全員がボランティアでの活動となります。2017(平成29)年1月からは毎週金曜日、小田急線「愛甲石田」駅を最終バスが発車した後に、森の里まで11時30分、12時10分、12時45分の3本の「ぐるっと深夜便」を走らせています。予想していた以上に女性の利用者が多く、より安全性を高めるため家の前まで送っています。

――「厚木ぐるっと」を立ち上げた経緯を伺えますか。

武井さん:「森の里ふぉーらむ」という組織が前身です。1997(平成9)年からの2年間、4丁目の自治会長を務めた私ですが、そのとき多くの魅力的な方と知り合うことができました。その経験から、退任後も自治会と関わっていたいという気持ちになり、自治会支援団体として交通・少子高齢化・防犯をテーマとした前述の「森の里ふぉーらむ」を7名で立ち上げました。

立ち上げの経緯を話してくれる武井さん
立ち上げの経緯を話してくれる武井さん

3つのテーマのなかで、まず最優先課題として“交通”を選びました。駅から離れていることで魅力的な住環境がある森の里ですが、一方で通勤・通学者の立場ではアクセス面に課題がありました。その課題を解決するために活動を開始し、その後「森の里ふぉーらむ」は法人化し、「厚木ぐるっと」となりました。

――これまでの道程を振り返ったとき、どのようなことで苦労を感じましたか?

武井さん:苦労したのは、初期費用と運営費をどのように賄うかということでした。運営費として、その一部を利用者に負担してもらうという選択肢もありましたが、行政との度重なるやりとりのなかで、1円でも徴収すれば営業行為に該当し、緑ナンバーを付けて走らなくてはならないことが分かりました。その場合、路線に停留所を設ける必要が出てきてしまい、そうなると他地域で見られるコミュニティバスと同じ形態になってしまいます。

当時の苦労を話してくれた高倉さん(左)と武井さん(右)
当時の苦労を話してくれた高倉さん(左)と武井さん(右)

“どうせやるなら、全国的にも珍しいことをやろう”ということで、白ナンバーの自家用登録された自動車で運行するという結論に達したのです。しかし、方向性は決まったものの初期費用と運営費ついての解決策はなかなか見つからず、自治会費の値上げを提案し、それについての賛同は得られたものの、なかなか実現化の動きには繋がりませんでした。

熱い想いがあれば

熱い想いを語る武井さん
熱い想いを語る武井さん

――そうした経緯を知ってしまうと、どのように実現させたのかが大変気になります。

武井さん:スーパーマーケットで買い物をするため、タクシーを利用している高齢者がいることを知り、森の里と「愛甲石田」駅を繋ぐことも大切ですが、それよりも先に、森の里を巡回する乗合バスが必要ではないかと。そして発起人である7名で費用を分担するつもりで準備を進めていたときに、厚木市市民協働提案事業に認定されれば支援を得られることが分かったのです。

企画書が通り、いよいよ乗合バス事業が動き出すことになりました。利用者のなかには、“私にとってありがたやバスです”と言ってくださる方もいました。そうした嬉しい言葉だけでなく、「日産自動車」さんが電気自動車を無償貸与してくれるなどのサポートもありました。

無償貸与された電気自動車
無償貸与された電気自動車

――地域に関わる上で、心がけていることはありますか?

武井さん:それぞれが“許し合える”地域社会に、少しでも貢献できればと思っています。住民同士のトラブル――苛立ちや不満の多くは、相手をよく知らないことが原因で引き起こされるものです。活動を通じて人と人との繋がりを深めることに寄与できるのであれば、我々としても本当に嬉しいですね。

次の世代へ繋げていく

スーパー三和 森の里店
スーパー三和 森の里店

――「厚木ぐるっと」の課題や展望についてはいかがでしょうか。

武井さん:働き盛りの40代の数名が、手伝いたいと申し出てくれました。時間にゆとりがある我々のような立場ではなく、何かと忙しい世代からそのような声が挙がったというのは、ある意味では“森の里らしさ”を感じますし、こうした事例は珍しいのではないかと思います。地域社会と積極的に関わっていくことのやりがいを、次の世代にもしっかりと伝えていきたいですね。

歩車分離で整備された街並み
歩車分離で整備された街並み

――“森の里らしさ”という言葉も出ましたが、改めて森の里の魅力、また森の里にしかない特徴を聞かせてください。

武井さん:私が生まれ育ったのは、ここではなく足柄上郡山北町です。いつかは故郷に戻りたいと思っている私ですが、それでも森の里から離れられない理由は、“ここでしかできない”ことがあるからだと思っています。議論を深めていけばいつかは理解し合うことができ、そこから発展的な話に結び付けられる方がたくさんいる街なのです。森の里でしかできないことがある――その確信があるからこそ、私はここにいるのだと思います。

武井主税さん
武井主税さん

一般社団法人 厚木ぐるっと

武井 主税さん

URL:http://www.gooletto.com/
※この情報は2017(平成29)年8月時点のものです。